温故知新の経営戦略 〜クロスビーのQuality Without Tearsに学ぶ日本企業再生の道〜

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温故知新の経営戦略 〜クロスビーのQuality Without Tearsに学ぶ日本企業再生の道〜

はじめに

「品質は無料である」──この一見逆説的な言葉に、私は20代後半のとき強い衝撃を受けた。世界有数の米国化粧品会社の日本法人でマーケティング本部の管理職を務めていた頃のことである。国際競争が激しさを増し、日本市場でも変革が求められていた時代、本社から突如として通達が届いた。「全世界の子会社で、フィリップ・B・クロスビーの品質管理を導入する」。その知らせに、当時の私も仲間たちも少なからず戸惑いを覚えた。

やがて数日にわたる研修が始まった。会場には、各部署から選ばれた管理職たちが緊張した面持ちで集まっていた。分厚いテキストが配られ、スクリーンには「Quality Without Tears(涙なき品質管理)」の文字が映し出される。講師の口から発せられた最初の問いかけは、今でも鮮明に記憶している。
──「不良品にかかるコストは、いくらになると思いますか?」

その瞬間、会場はざわめいた。製造現場を直接抱えない化粧品会社の我々には、即答できる者はいなかった。しかしクロスビーの体系は、単に製造現場の問題ではなく、顧客対応、物流、営業、あらゆる場面での「手戻り」「不適合」によって企業がどれほどの損失を被っているかを突きつけてきた。不適合コスト(PONC)適合コスト(POC)。その概念を学んだとき、私は頭を打たれたような感覚を覚えた。

やがて現場に導入すると、目に見える変化が起きた。これまで「仕方がない」と流されていた小さなミスが、社員全員の意識のもとで是正されるようになった。顧客への対応一つを取っても、「最初から正しく行う」ことがどれほど大きな信頼を生むのかを、私たちは体感した。数値としての改善も確かに現れたが、それ以上に忘れられないのは、社員の表情が変わっていったことである。自分たちの仕事に誇りを取り戻した姿を、私は現場で何度も目撃した。

あの経験は、私にとって単なる研修受講ではなかった。経営とは、現場の努力に涙を強いることではなく、組織全体が涙を流さず成果を出せる仕組みをつくることだ──クロスビーの「Quality Without Tears」という思想は、そうした経営の本質を教えてくれた。そして今、あの時に得た学びは、低迷する日本企業が再生の道を歩むための大きなヒントになると確信している。

本稿では、クロスビーの提唱した理念を整理し、その核心にある考え方と実践方法を掘り下げる。そして、PONCやPOCの概念、ゼロ・ディフェクトの思想が、いかにして日本企業の再生と未来戦略に結びつくのかを具体的に論じていく。序章では、まずその基本理念を丁寧にひも解き、続く各章で事例とともに考察を深めていくこととする。

序章:なぜ今、クロスビーに立ち返るのか

日本企業は長らく「品質立国」と称されてきた。戦後の焼け野原から立ち上がり、わずか数十年で世界市場を席巻するに至った最大の要因は、技術革新や勤勉さだけではなく、「品質」という揺るぎない競争優位であった。1980年代のアメリカでは、自動車や家電分野において日本製品が席巻し、米国議会で「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と取り上げられるほどの脅威として映った。米国の消費者は「日本製なら壊れない」「日本の製品は信頼できる」という確信を持ち、日本ブランドは世界市場において金字塔を打ち立てたのである。

しかし21世紀に入り、日本企業の品質神話は徐々に揺らぎ始めた。自動車業界におけるリコールの多発、鉄鋼業界におけるデータ改ざん問題、電機産業の国際競争力低下──こうした事象は単発的な不祥事ではなく、日本企業全体が抱える構造的課題を露呈するものであった。かつての「品質第一」は、現場の合言葉であっても、経営戦略の中核から外れてしまったケースが少なくなかったのである。短期的利益を優先する株主資本主義の影響、グローバル競争下でのコスト削減圧力、そして「現場任せの品質文化」の限界が、問題の根底にある。

こうした状況に直面したとき、私の記憶に鮮明によみがえるのは、アメリカの品質管理コンサルタント フィリップ・B・クロスビー(Philip B. Crosby) との出会いである。彼は「品質は無料である(Quality is Free)」と断言し、従来の「品質はコストを引き上げる」という常識を覆した人物である。そして、彼の思想を体系化した著作『Quality Without Tears』は、品質を「複雑な管理の対象」から「誰もが理解できる哲学」へと昇華させた一冊であった。

私は20代後半、世界有数の米国化粧品会社の日本法人でマーケティング本部の管理職を務めていた。その時期に、本社を含む全世界の子会社にクロスビーの手法を導入することが決定され、数日にわたる研修に参加した。研修では「不適合コスト(PONC)」と「適合コスト(POC)」の明確な定義が示され、欠陥の発生がどれほど莫大な損失を招いているかを数値で突きつけられた。例えば、ある生産ラインではわずか数%の不良率が、年間数億円規模の再作業費用、返品対応費用、ブランド毀損につながっていることが示された。その一方で、工程設計や教育に投資する「適合コスト」は、その何分の一で済むことも明らかにされた。この「気づき」は、私自身の品質観を根本から揺さぶった瞬間であった。

クロスビーは「品質は経営戦略の一部であり、現場だけで担保できるものではない」と繰り返し強調した。経営トップが自らの責任として品質を語り、全社員が「ゼロ・ディフェクト(Zero Defects)」を信条とする文化を築かなければ、持続的成長は望めないと説いた。そのメッセージは単なるスローガンではなく、具体的かつ実証的な事例に裏打ちされたものであった。

今、日本企業が再び世界での存在感を取り戻すためには、クロスビーの思想に立ち返り、品質を「涙なく」実現するという経営哲学を再解釈する必要がある。本稿では、クロスビーの概念と手法を深く掘り下げるとともに、欧米、アジア、日本の具体的事例を交えて「日本企業再生の道」を提示していく。

第1章 フィリップ・B・クロスビーの思想と背景

1-1 クロスビーの生涯と原体験

フィリップ・B・クロスビーは1926年、米国ウェストバージニア州で生まれた。第二次世界大戦中、若きクロスビーは医療兵として従軍し、戦場で人命と直結する「品質」の重要性を身をもって体験した。戦地で使用される医療器具や輸血パックの品質不良がもたらす致命的リスクを目の当たりにし、「欠陥は許されない」という思いが彼の思想の原点となったのである。

戦後、クロスビーは製造業界に入り、特にIT&T社(International Telephone and Telegraph)での経験が彼の名声を決定づけた。上級副社長として「ゼロ・ディフェクト運動」を推進し、全社規模での品質文化を構築した。その結果、数十億ドル規模の不良・再作業コストを削減し、米国産業界における成功事例として高く評価された。

1-2 『Quality Is Free』の衝撃

1979年に出版された『Quality Is Free』は、品質管理の世界に衝撃を与えた。「品質を確保することは無料である」という主張は、常識を根底から覆す挑発的な表現であった。従来、経営者は「品質を向上させればコストが増える」と信じていた。しかしクロスビーは「欠陥や不良による損失(不適合コスト)をなくすことこそが最大のコスト削減である」と論じ、品質を経営の利益構造と直結させたのである。

このメッセージは米国企業の間で熱狂的に受け入れられた。1980年代、アメリカ企業は日本製品との競争で苦境に立たされていたが、『Quality Is Free』はその打開策として注目を集め、多くの企業がクロスビーにコンサルティングを依頼した。

1-3 『Quality Without Tears』の登場意義

1984年、クロスビーは前著をさらに発展させ、『Quality Without Tears』を刊行した。この著作では「品質は複雑な数式や統計の問題ではなく、誰もが理解できるシンプルな原則である」と再定義した。クロスビーは、経営者も現場社員も同じ言葉で品質を語れるように、専門用語を排し、直感的に理解できる概念を提示したのである。

この背景には、当時のアメリカが抱える製造業の危機があった。自動車、半導体、家電といった産業で日本企業に押され、米国製品は「壊れやすい」「信頼できない」という烙印を押されていた。クロスビーはこの状況を逆転させるには、経営者が自ら先頭に立ち、組織全体を品質文化に染め上げるしかないと訴えた。『Quality Without Tears』は、経営者がすぐに行動に移せる「実践のための書」であった。

1-4 クロスビー思想の三本柱

クロスビーの品質管理哲学を支えるのは、次の三本柱である。

  1. 品質とは要求への適合である(Quality is Conformance to Requirements)
    品質とは「豪華さ」や「高性能」といった曖昧な概念ではなく、顧客や設計仕様に定められた要求に適合することである。これにより品質が客観的・測定可能な基準となり、組織全体で共通理解が持てる。
  2. ゼロ・ディフェクト(Zero Defects)
    欠陥ゼロは理想論ではなく実践可能な文化である。クロスビーは「ミスは必然ではなく防止可能である」という前提に立ち、全社員が「最初から正しく行う」ことを習慣化すべきだとした。これは単なる数値目標ではなく、組織のマインドセットの変革を意味する。
  3. 経営トップの責任
    品質は現場任せではなく、経営者自らがリーダーシップを発揮して推進すべきものである。クロスビーは「品質の問題は経営問題である」と断言し、経営層が無関心である限り、品質問題は解決されないと警鐘を鳴らした。

1-5 日本企業との接点

クロスビーの思想は、日本企業にとっても新たな刺激となった。日本はデミング博士やジュラン博士の統計的品質管理をいち早く取り入れ、QCサークルやTQC活動で成果を挙げた。しかし、それはしばしば「手法偏重」「現場任せ」となり、経営者自身が主体的に品質を語る文化には必ずしも至らなかった。クロスビーの「シンプルな哲学」と「経営責任の強調」は、日本企業の盲点を突いていたのである。

筆者が経験した米国化粧品会社の研修でも、「品質は涙なく達成できる」という考え方は、現場のモチベーションを大きく変えた。従来は「不良が出るのは仕方がない」と考えていた社員が、「不良は予防できる」「初めから正しくやれば再作業も不要になる」と発想を転換した。結果として、欠陥率は減少し、顧客からのクレーム件数も劇的に減ったのである。

1-6 本章のまとめ

クロスビーは品質を「難解な技術」から「全社員が理解できる経営哲学」へと変革した。その思想は、アメリカ企業を再生させただけでなく、日本企業が再び世界市場で存在感を取り戻すための羅針盤となり得る。次章以降では、彼の概念の中核である「不適合コスト(PONC)」「適合コスト(POC)」を詳細に解説し、日本企業再生の具体的道筋を提示していく。

第2章 Quality Without Tears の核心概念

2-1 「Quality Without Tears」の誕生意図

フィリップ・B・クロスビーが『Quality Without Tears(クオリティ・ウィズアウト・ティアーズ)』を著した1984年当時、米国製造業は深刻な危機に直面していた。自動車業界では日本車が米国市場でシェアを奪い、電子機器や半導体においても日本製品が信頼性の高さで圧倒していた。米国の経営者たちは「日本企業の品質はなぜこれほど高いのか」と驚愕し、対抗策を模索していた。

一方で、米国企業における品質改善活動は複雑化していた。統計的品質管理、工程管理、QCサークルなどが導入されたが、それはしばしば「専門家だけが理解する難解な手法」と化し、現場社員や経営層が十分に腹落ちできない状況にあった。クロスビーは、こうした「難しさ」や「抵抗感」こそが品質改善の普及を阻害していると洞察した。

彼が掲げた「Without Tears(涙なくして)」という表現には、品質改善は決して苦痛や複雑な技術を伴うものではなく、誰もが理解し楽しみながら取り組めるシンプルな営みである、という強烈なメッセージが込められている。

2-2 核心概念その一:「品質とは要求への適合である」

クロスビーの思想の出発点は、品質の定義にある。彼は「品質とは要求への適合(Quality is Conformance to Requirements)」と明快に定義した。

これは従来の「品質=高性能」「品質=高級感」といった曖昧で主観的な概念を否定し、顧客や設計者が定めた具体的な要求に合致しているかどうかで品質を判断するという考え方である。たとえば、高級車のような豪華な機能を持たなくとも、軽自動車が「低燃費で安全に移動できる」という要求を満たしていれば、その製品は高品質と定義される。

この定義は日本企業にとっても新鮮であった。日本では「品質=高い精度・高級さ」という価値観が強かったが、クロスビーは「品質は顧客要求に依存する」という市場志向を鮮明にした。これはのちにサービス業やソフトウェア開発など、製造業以外の分野でも適用される普遍的原理となった。

2-3 核心概念その二:「ゼロ・ディフェクト(Zero Defects)」

クロスビーの代名詞ともいえる概念が「ゼロ・ディフェクト(欠陥ゼロ)」である。この理念はしばしば誤解される。単なる「不良ゼロ」という数値目標ではなく、「初めから正しく行う」という文化を築く運動なのである。

彼は「人は間違える存在だから欠陥は必然」とする従来の諦めに挑戦した。クロスビーにとって欠陥は「防止できるもの」であり、組織文化を変えることで限りなくゼロに近づけることが可能である。

実際、ITTでの「ゼロ・ディフェクト運動」は、全社員が「自分の仕事を一度で正しく行う」ことを誓約する形で始まった。ある工場では、欠陥率が数か月で50%以上減少し、再作業コストが劇的に削減された。重要なのは、社員が「ゼロ・ディフェクトは自分にもできる」と信じ、日々の行動に落とし込んだことであった。

韓国サムスン電子も1990年代に類似の哲学を採用した。サムスンは「品質はわが社の誇り」というスローガンを掲げ、経営トップ自らが不良品を破壊するパフォーマンスを行った。これはクロスビーが強調した「経営トップのコミットメント」を体現する行動であり、のちのサムスンのグローバル躍進の基盤を築いた。

2-4 核心概念その三:「品質改善は経営の責任である」

クロスビーの第三の核心は「品質は経営の問題である」という主張である。彼は品質を「現場の問題」に押し付けることを強く批判し、経営者が自ら旗を振らなければ本当の改善は起こらないと断言した。

これは当時の米国企業にとって耳の痛い指摘であった。経営者は短期的な利益に追われ、品質問題は現場任せになっていた。その結果、不良品の山と顧客不信を招いた。クロスビーは「経営者が品質の旗手とならなければならない」とし、全社員が同じ方向を向く文化づくりを促した。

日本企業においても、この視点は極めて重要である。日本的経営は現場重視を強みとしたが、その一方で経営層が品質に無関心な事例も少なくなかった。例えば、近年の大規模リコールやデータ改ざん問題では、現場の「無理を通す文化」を経営が容認したことが根本原因である。クロスビーの思想は、こうした経営姿勢への鋭い警鐘として再解釈できる。

2-5 「Without Tears」の意味──シンプルさと普遍性

クロスビーが「Without Tears」と表現したのは、品質改善が難解な数式や専門知識に頼るのではなく、日常業務の中に自然に組み込まれるべきだという信念からであった。

例えば、ある米国の保険会社では、複雑な統計分析を駆使するのではなく「顧客への対応を一度で正しく行う」という原則を徹底した。その結果、苦情処理件数が大幅に減り、顧客満足度は飛躍的に向上した。これは製造業だけでなく、サービス業にもクロスビーの思想が通用することを証明した事例である。

また、シンガポール航空は「一度で正しく」という哲学を徹底し、客室サービスの標準化と教育に注力した。これにより「世界一の航空会社」という評価を長年維持している。ここにも「涙なく品質を達成する」というクロスビーの思想が生きている。

2-6 日本企業における意義

日本企業にとって、「Quality Without Tears」の核心概念は二つの示唆を持つ。第一に、品質は「現場の努力」ではなく「経営の哲学」であるという点である。第二に、品質を「シンプルな言葉」に落とし込む必要性である。

筆者が経験した米国化粧品会社での研修でも、クロスビーの概念は非常に分かりやすく、現場社員の共感を呼んだ。従来はQC手法が「専門家のもの」として距離を感じていたが、「ゼロ・ディフェクト」「要求への適合」という言葉は、誰もが理解し即実践できるものだった。この「シンプルさ」こそが文化変革を推進する力である。

2-7 本章のまとめ

『Quality Without Tears』の核心は、「品質とは要求への適合」「ゼロ・ディフェクト」「経営トップの責任」という三つの概念に集約される。そしてこれらを実践に移す際のキーワードが「Without Tears」、すなわち「涙なく実現できるシンプルさ」であった。

品質を難解な技術から解放し、経営哲学として全員が共有すること──これこそがクロスビーの最大の貢献である。次章では、彼の理論の中でも特に経営者に衝撃を与えた「不適合コスト(PONC)」と「適合コスト(POC)」の概念を取り上げ、数値的かつ実務的な側面からその意義を掘り下げていく。

第3章 PONC(不適合コスト)

3-1 PONCとは何か──定義と位置づけ

フィリップ・B・クロスビーが提示した代表的な概念のひとつが PONC(Price of Non-Conformance, 不適合コスト) である。直訳すれば「要求に適合しなかったことによって生じるコスト」であるが、その意味するところは単なる不良品の修理代や返品費用にとどまらない。

クロスビーは「品質とは要求への適合である」と定義した。したがって、その要求に適合しない製品・サービスが生じた場合、その修正や補填にかかるコストすべてが「不適合コスト」である。これには以下が含まれる:

  • 直接的コスト:再作業費、材料廃棄費、検査強化費
  • 間接的コスト:顧客対応費用、保証や修理対応、物流費
  • 潜在的コスト:ブランド価値毀損、顧客離脱、法的訴訟リスク

クロスビーは「多くの企業は不適合コストを正しく把握していない」と指摘した。経営者はしばしば「不良は製造コストの一部」と考えがちだが、実際には企業全体の収益構造を揺るがす重大要因なのである。

3-2 PONCの特徴──氷山の一角

不適合コストの特徴は「氷山モデル」で表現されることが多い。水面上に見えているのは、目に見える直接的なコスト(不良品の修理や返品対応など)に過ぎない。だが、水面下には膨大な間接的・潜在的コストが隠れている。

例えば、顧客が購入後に欠陥を経験した場合、単に返品にかかる費用だけでなく、「二度とこの会社の製品は買わない」という心理的反応が生じる。さらにSNSや口コミで拡散すれば、数千、数万人単位の潜在顧客が離反する。これは会計上すぐに現れないが、長期的な売上減少という形で企業の財務に甚大な影響を与える。クロスビーは、これこそが企業が見落としてはならない最大のコストであると警鐘を鳴らした。

3-3 欧米企業における事例

(1)米国自動車産業

1980年代、米国自動車メーカーは日本車との競争で苦境に立たされた。フォードやGMの車は故障が多く、顧客からの信頼を失っていた。クロスビーは自動車業界に対し「不適合コストの総額を試算せよ」と提言した。ある調査では、不適合コストが総売上の20〜25%に達していたことが明らかになった。つまり、利益を圧迫していたのは競合の低価格戦略ではなく、自社が垂れ流している膨大な「不適合コスト」だったのである。

(2)欧州の製造業

ドイツの電機メーカー・シーメンスでは、1990年代に品質問題が顕在化した。クロスビーの手法を導入し、不適合コストを詳細に算出したところ、年間数億ユーロ規模の「隠れコスト」が存在することが判明した。そこで、工程設計の段階で「ゼロ・ディフェクト」を徹底した結果、わずか数年で不適合コストを半減させ、競争力を回復することができた。

3-4 アジア企業における展開

(1)韓国サムスンの事例

1990年代、サムスンは「フライング・ゲット」的に新製品を市場投入する一方で、不良率の高さに悩まされていた。創業家の李健熙会長は「不良品を出すぐらいなら工場を焼き払え」とまで言い放ち、品質改革に着手した。クロスビーの思想を取り入れ、不適合コストを定量化したところ、全社の利益を圧迫していた原因が明確になった。そこからは「ゼロ・ディフェクト」を合言葉に徹底的な改革が行われ、サムスンは「安かろう悪かろう」から「高品質ブランド」へと飛躍した。

(2)シンガポール航空の事例

航空業界における不適合コストは、整備不良やサービスの不備として顧客満足度に直結する。シンガポール航空は、クロスビー思想を応用し、「一度で正しく(Do it right the first time)」をスローガンに掲げた。これにより機内サービスのトラブルや顧客苦情件数を大幅に減らし、航空業界で世界トップクラスの評価を維持している。

3-5 日本企業における適用

日本企業においても、不適合コストの存在は無視できない。かつて日本企業は「品質神話」で世界を席巻したが、近年はリコールや検査不正などが頻発し、ブランド毀損による潜在的損失が拡大している。

(1)自動車業界

ある日本の大手自動車メーカーでは、大規模リコールによって数千億円規模の損失を計上した。これは単なる修理費用だけでなく、販売機会損失、株価下落、企業ブランド価値の低下といった「見えざる不適合コスト」を伴っていた。クロスビーの観点からすれば、これは「未然に防げたコスト」であり、経営層がPONCを戦略的に把握していれば回避できたはずである。

(2)化粧品・消費財業界

筆者がかつて所属していた米国化粧品会社の日本法人でも、PONCの概念は極めて有効であった。ある新商品の製造工程でわずかな仕様ズレが発覚し、数万本単位の廃棄を余儀なくされた。これは直接的損失に加え、販売機会損失や流通先への信用低下といった「見えないコスト」を伴った。この経験から、PONCを数値化して経営層に報告し、工程設計の段階で予防的投資を行う体制を構築した結果、翌年には返品率が半減し、利益率が改善した。

3-6 PONCの計算と経営意思決定

クロスビーは、不適合コストを算出すること自体に大きな意義を見出した。多くの企業では「不良率○%」といった指標はあっても、それがどれほどの金額的損失につながるかを正しく把握していない。PONCを金額で算出することで、経営者は「品質投資が利益を生む」という事実を理解できるようになる。

例えば、ある製造業で年間売上1000億円に対してPONCが15%存在すれば、150億円が失われていることになる。これは研究開発費や広告費に匹敵する規模であり、「不適合コストを半減させることが最大の収益改善策」と経営者に気づかせる強烈な指標となる。

3-7 本章のまとめ

PONC(不適合コスト)は、企業が見落としがちな「隠れたコスト」を可視化する概念である。クロスビーは「品質は無料である」と主張したが、その裏には「不適合コストこそが企業を蝕む最大のコストである」という洞察があった。欧米企業はこの概念によって復活の道を歩み、アジア企業も飛躍を遂げた。日本企業も今こそPONCを真摯に算出し、品質投資を経営戦略の中核に据えるべきである。

次章では、PONCと対をなす概念である POC(Price of Conformance, 適合コスト) を取り上げ、両者のバランスがいかに企業の競争力を決定するかを詳しく考察する。

第4章 POC(Price of Conformance, 適合コスト)

4-1 POCとは何か──定義と基本的考え方

クロスビーが提示したもう一つの重要概念が POC(Price of Conformance, 適合コスト) である。これは「要求に適合するために必要となるコスト」を意味する。言い換えれば、欠陥を出さないように事前に行う投資、すなわち「予防コスト」である。

POCの具体例には以下が含まれる。

  • 教育・訓練費用:社員が「正しくやる」ために必要な研修やスキル習得
  • 工程設計・標準化への投資:製造工程や業務プロセスを最適化し、不具合を未然に防ぐ
  • 検査や品質保証体制の構築:要求に適合していることを確認するための活動
  • 品質マネジメントシステム導入費用:ISOやTQM、あるいはITシステムの構築

クロスビーは、「不適合コスト(PONC)」と「適合コスト(POC)」の比較を通じて、企業がいかに誤った意思決定をしているかを明らかにした。多くの経営者はPOCを「コスト増加」と捉える。しかし、実際にはPOCを適切に投資することでPONCを大幅に削減でき、結果的に全体コストは減少し、利益は拡大するのである。

4-2 POCとPONCの関係──投資対効果の視点

クロスビーは「品質改善は利益改善である」と強調した。その根拠が、POCとPONCの関係にある。

仮にある企業で、不適合コスト(PONC)が売上の15%を占めていたとする。年間売上1000億円なら150億円である。ここで、教育や工程設計に数億円規模のPOCを投資すれば、不良率が低下し、PONCが数十億円単位で削減される。つまり、POCは支出ではなく「投資」である

クロスビーはこれを「最も確実な投資効果」と位置づけた。株式市場や新規事業への投資は不確実性を伴うが、品質への投資は必ずPONC削減という確実な成果をもたらすからである。

4-3 欧米企業の事例

(1)IBMの品質改革

1980年代、IBMはハードウェアの信頼性問題に直面していた。そこでクロスビーの哲学を参考に、社員教育や工程設計への投資(POC)を強化した。初期段階では年間数千万ドルの追加費用がかかったが、不具合率が急激に低下したことで、数年以内に数十億ドル規模のPONC削減につながった。結果として顧客満足度は回復し、IBMブランドの信頼性は復権した。

(2)フォードの「Quality is Job 1」キャンペーン

フォードは1980年代に「品質第一」を掲げ、教育・標準化への大規模投資を実施した。これはクロスビーのPOC思想に近い実践であり、従業員一人ひとりに「初めから正しく行う」という意識を浸透させた。その成果として、不良率の低下に加え、顧客ロイヤルティが向上し、販売台数が増加した。ここでもPOCが利益を押し上げることが証明された。

4-4 アジアにおける事例

(1)韓国LG電子

LGは1990年代後半、品質問題で苦境に立たされていたが、POCの考え方を積極的に取り入れた。特に新製品開発段階での「品質設計レビュー」に投資を行い、設計段階で不良を潰す仕組みを構築した。結果的に市場投入後の不具合率は劇的に下がり、保証費用(PONC)が数割削減された。

(2)インドの製薬会社

インドの大手製薬メーカーでは、米国FDAの規制をクリアするためにPOCへの大規模投資を行った。教育研修、品質管理システム、実験室検証プロセスなどに資金を投下した結果、国際市場での信頼性を確立し、グローバル展開を可能にした。ここでも「予防投資(POC)」が新たな市場参入の扉を開いたのである。

4-5 日本企業における適用と課題

(1)製造業の事例

日本の大手自動車メーカーでは、近年の大規模リコールを受けて、再発防止のために工程設計と品質教育への投資(POC)を強化した。従来は「コスト削減」の名のもとに教育費用や設計検証が削られていたが、その結果としてPONCが拡大し、巨額のリコール費用を招いた。POC強化後は、部品メーカーとの連携を深める仕組みを構築し、不適合の芽を早期に摘み取ることに成功した。

(2)サービス業・小売業の事例

ある大手コンビニエンスストアでは、レジオペレーションや商品管理のエラーが頻発していた。そこで従業員教育やマニュアル改善に投資(POC)を行い、オペレーションの標準化を徹底した。初期投資は数億円規模だったが、返品ロスやクレーム対応費用(PONC)が削減され、1年以内に投資を上回る効果が得られた。

筆者がかつて関与した米国化粧品会社のケースでも、同様の経験があった。品質トラブルを減らすために研修と工程設計へのPOC投資を行ったところ、翌年には返品率が半減し、利益率が顕著に改善した。まさにクロスビーが説いた「品質は無料である」が実感された瞬間であった。

4-6 POCが生む組織文化の変革

POCの意義は単なる数字上のコスト削減にとどまらない。それは組織文化を変える力を持っている。

POCを積極的に投資する企業では、社員が「自分たちは正しくやることを求められている」という誇りを持つようになる。品質教育や工程設計の改善は、社員に対して「信頼と期待」を示すメッセージでもある。その結果、社員のモチベーションは高まり、エラーを防ぐための主体的な工夫が生まれる。

逆に、POCを軽視する企業では、「教育は無駄」「品質投資は削減対象」という風潮が広がり、現場の士気は低下する。その先に待っているのは、不適合コスト(PONC)の増大とブランド価値の失墜である。

4-7 本章のまとめ

POC(適合コスト)は、クロスビー品質哲学の中核をなす概念である。それは単なるコストではなく、将来の不適合を防ぐための戦略的投資である。POCを軽視すればPONCが拡大し、企業の存続を脅かす。一方、POCを積極的に行えば、PONCは縮小し、品質は競争優位となる。

欧米、アジア、日本の事例はこの原理を鮮やかに証明している。クロスビーが「品質は無料である」と断言した背景には、「POCは必ず回収できる投資である」という揺るぎない信念があった。

次章では、クロスビーが体系化した「14ステッププログラム」を取り上げ、品質文化を組織全体に根づかせるための実践手法を具体的に探っていく。

第5章 クロスビー品質管理の14ステッププログラム

5-1 14ステッププログラムの意義

フィリップ・B・クロスビーは、『Quality Without Tears』において「ゼロ・ディフェクト(Zero Defects)」や「品質は要求への適合である」という概念を打ち出したが、単なる理論だけでなく、企業がどのように品質文化を根付かせるかについても具体的手順を示した。それが 「14ステッププログラム」 である。

この14ステップは、現場の改善活動にとどまらず、経営層から現場社員までを巻き込む全社的な取り組みを設計したものだった。クロスビーは「品質は経営者の責任であり、全員参加でなければ実現できない」という哲学を、このプログラムに具体化したのである。

5-2 14ステップの全体像

クロスビーの14ステップは以下のように整理される:

  1. 経営者のコミットメント
  2. 品質改善チームの組織化
  3. 品質評価の測定
  4. 品質コストの算出(PONC・POCの明確化)
  5. 品質認識の啓発
  6. 是正措置の実施
  7. ゼロ・ディフェクト委員会の設置
  8. 社員教育と訓練
  9. ゼロ・ディフェクト・デーの開催
  10. 目標設定と明確化
  11. エラー原因の除去
  12. 表彰・評価制度
  13. 品質改善評議会の設立
  14. 継続的な活動の定着化

クロスビーは「これらを飛ばしてはならない」と強調した。なぜなら、このプログラムは「点の取り組み」ではなく「線と面の改革」だからである。

5-3 各ステップの詳細と事例

ステップ1:経営者のコミットメント

品質改善は現場ではなく経営トップから始まる。経営者が「品質は最優先事項である」と明確に宣言し、資源と権限を与えることで初めて全社が動く。

  • 事例:米フォード社では、経営トップが「Quality is Job 1」を掲げ、広告キャンペーンと同時に全社的品質改革を実行した。このトップダウンの意思表明が組織を大きく動かした。

ステップ2:品質改善チームの組織化

部署を横断したチームを設け、部門ごとのサイロ化を打破する。品質問題は生産部門だけでなく、営業・設計・サービスを含む全社的課題である。

  • 事例:シーメンスは品質チームに経理部門も参加させ、不適合コストの金額的把握を強化した。これにより経営判断が迅速化した。

ステップ3:品質評価の測定

現状の品質レベルを定量化する。これは単なる不良率ではなく、顧客満足度や納期遵守率など多角的に測定する必要がある。

ステップ4:品質コストの算出

不適合コスト(PONC)と適合コスト(POC)を金額で算出し、経営者に提示する。これにより「品質投資の正当性」が明らかになる。

  • 事例:ある日本の電機メーカーでは、PONCが売上の12%に相当することが明らかとなり、POCへの投資が取締役会で承認された。

ステップ5:品質認識の啓発

全社員に対し「品質は経営の命である」というメッセージを浸透させる。スローガンや研修だけでなく、経営者自らが現場を訪れ、語りかけることが効果的である。

ステップ6:是正措置の実施

発見された不適合に対して迅速に是正措置を行う。これは「問題解決力」を養う重要なステップである。

ステップ7:ゼロ・ディフェクト委員会の設置

品質文化を推進する専任組織を設け、各部門をリードする。

  • 事例:韓国サムスンは「品質委員会」を設立し、経営層が直接関与する体制を構築した。

ステップ8:社員教育と訓練

品質は習慣であり、教育なしには根付かない。社員一人ひとりが「最初から正しく行う」ことを理解し実践できるようにする。

ステップ9:ゼロ・ディフェクト・デー

品質運動の象徴的イベントを設け、全社で品質への決意を新たにする。

  • 事例:ITTでは年に一度「Zero Defects Day」を開催し、全社員が誓約カードに署名することで意識を高めた。

ステップ10:目標設定と明確化

部署ごとに具体的な品質目標を設定し、達成度を測定する。

ステップ11:エラー原因の除去

不具合を「人のミス」として終わらせるのではなく、根本原因を究明し、システム的に排除する。

ステップ12:表彰・評価制度

品質改善に貢献した個人やチームを表彰することで、文化を定着させる。

  • 事例:日本の大手家電メーカーでは「品質提案制度」を導入し、優れた改善提案には経営層が直接表彰を行った。

ステップ13:品質改善評議会の設立

改善活動を継続するためのプラットフォームを作り、部門間の情報共有とベストプラクティスの拡散を図る。

ステップ14:継続的な活動の定着化

品質活動は一過性のキャンペーンではなく、日常業務に組み込まれるべきものである。クロスビーは「品質はプロジェクトではなく文化である」と語った。

5-4 アジアと日本での実践例

アジア

シンガポール航空では、ステップ8(教育訓練)とステップ9(ゼロ・ディフェクト・デー)を重視し、社員が「一度で正しくサービスする」ことを徹底した。この結果、顧客満足度ランキングで世界トップを維持した。

日本

日本企業はQCサークルやTQCで品質活動を進めてきたが、クロスビーの14ステップを導入した企業は「経営者主導の品質改革」という点で新しい成果を上げた。ある日本の大手自動車部品メーカーでは、ステップ4の「不適合コスト算出」を実施した結果、経営層が品質投資を積極的に承認するようになり、リコール件数が大幅に減少した。

5-5 本章のまとめ

クロスビーの14ステッププログラムは、品質を「現場活動」から「経営戦略」へと引き上げる具体的なロードマップである。単なる理論ではなく、経営層から現場までが一体となって文化を変革する手順が詳細に示されている点に最大の価値がある。

欧米企業はこれを実践することで競争力を回復し、アジア企業は飛躍を遂げた。日本企業もこのプログラムを再解釈し、品質神話を新たに築く道を模索すべきである。

次章では、欧米企業におけるクロスビー手法の実践と成果を取り上げ、具体的にどのように競争優位を築いたのかを検証していく。

第6章 欧米企業における実践と成果

6-1 欧米におけるクロスビー思想の受容

1980年代から1990年代にかけて、欧米企業は日本製品の高品質・低価格に圧倒され、深刻な競争力低下に直面していた。特に米国では「品質問題は現場の努力で対応するもの」という認識が強く、経営層が十分に関与していなかった。クロスビーはそのような状況を的確に突き、「品質は経営者の責任であり、投資することで必ず成果を生む」と説いた。その明快さは、多くの欧米企業に衝撃を与えた。

彼の『Quality Is Free』『Quality Without Tears』はベストセラーとなり、フォード、IBM、Xeroxなどの大手企業が次々にクロスビーの考え方を採用した。特に「不適合コスト(PONC)の算出」と「適合コスト(POC)への投資」という枠組みは、経営層にとって分かりやすく、投資対効果を明確にする指標となった。

6-2 米国企業の事例

(1)フォード社──「Quality is Job 1」運動

1980年代初頭、フォードは品質問題で深刻な危機に陥っていた。不良車やリコールが相次ぎ、米国市場のみならず海外市場でも信頼を失っていた。そこで同社はクロスビーの思想を取り入れ、「Quality is Job 1(品質が第一の仕事)」というスローガンを掲げ、全社改革を実施した。

フォードはまず不適合コストを徹底的に算出し、その莫大さを経営層と社員に共有した。その上で、工程設計や社員教育への投資(POC)を積極的に行った。結果として、不良率は急速に低下し、リコール件数も減少。さらに品質改善が販売台数増加と利益率改善に直結した。フォードの「Quality is Job 1」キャンペーンは、クロスビー思想が米国製造業再生に与えた象徴的事例である。

(2)IBM──教育と設計への投資

IBMは1980年代、ハードウェア製品の信頼性低下に苦しんでいた。顧客からの苦情や修理対応費用が膨張し、ブランド価値が揺らぎ始めていた。そこでクロスビーの「ゼロ・ディフェクト」と「POCへの投資」思想を導入した。

具体的には、全社員に品質教育を徹底し、設計段階からの欠陥防止に注力した。初年度は数千万ドル規模の教育費用がかかったが、その投資は数年以内に数十億ドル単位の不適合コスト削減として回収された。IBMは「品質への投資は利益に直結する」というクロスビーの主張を、実際の業績改善で証明したのである。

(3)ゼロックス(Xerox)──顧客信頼の回復

1970年代から80年代初頭にかけて、ゼロックスは日本企業の複写機に市場を奪われていた。その背景には、自社製品の不具合やサービス対応の遅れがあった。クロスビーのアプローチを導入し、不適合コストの算出とゼロ・ディフェクト運動を展開した結果、サービスの質が改善し、顧客からの信頼を取り戻すことに成功した。ゼロックスはその後「ベンチマーキング」の概念を世界に広めるが、その基盤にはクロスビー思想に基づいた品質改革があった。

6-3 ヨーロッパ企業の事例

(1)シーメンス──不適合コストの可視化

ドイツのシーメンスは、1980年代に品質問題を抱え、競争力を失いつつあった。クロスビーの思想を参考に、まず不適合コストを全社的に算出した。すると、売上の15%以上が不良や再作業に費やされていることが明らかになった。この「見える化」によって経営陣の認識が一変し、教育・工程設計への投資(POC)が積極的に行われた。結果として、数年以内に不適合コストは半減し、競争力が回復した。

(2)フィリップス──サービス部門への展開

オランダのフィリップス社は、製造業に加えてサービス部門にもクロスビー思想を応用した。例えば、顧客対応における「最初から正しく行う(Do it right the first time)」を徹底し、顧客苦情処理件数を大幅に削減。これにより、サービス部門の効率が改善し、顧客満足度が向上した。クロスビーの哲学が製造業を超えてサービス業にまで適用可能であることを示した事例である。

6-4 成果とインパクト

欧米企業がクロスビー思想を導入した成果は大きく、以下のように整理できる。

  1. 不適合コストの削減
    多くの企業で売上の10〜20%に相当する不適合コストが明らかになり、その削減が利益向上に直結した。
  2. 顧客満足度の向上
    欠陥やクレームが減少することで、顧客の信頼を取り戻し、リピート率が向上した。
  3. ブランド価値の回復
    「品質重視」の姿勢がブランド力を高め、競合との差別化につながった。
  4. 組織文化の変革
    経営トップから現場までが「ゼロ・ディフェクト」を共通言語とし、品質が企業文化に根付いた。

6-5 日本企業への示唆

欧米企業がクロスビー思想を導入した背景は、日本企業との競争で苦境に立たされたことだった。皮肉なことに、現在は日本企業がグローバル競争で苦境に立たされている。ここから得られる教訓は明白である。

  • 品質を現場任せにせず、経営層が戦略的に主導すること
  • 不適合コストを可視化し、投資対効果を明示すること
  • 製造業に限らず、サービス業・ソフトウェア産業などあらゆる分野に応用すること

日本企業はかつて欧米に学ばれた立場から、今度は再びクロスビーの哲学を再解釈し、自らの再生に活かすべき段階にある。

6-6 本章のまとめ

クロスビーの思想は、フォード、IBM、ゼロックス、シーメンス、フィリップスといった欧米の大手企業に採用され、具体的成果を上げた。それは単なる品質改善にとどまらず、企業文化を変革し、顧客との信頼関係を回復するものであった。

「品質は無料である」というクロスビーの挑発的メッセージは、実際に多くの企業で実証された。次章では、アジア企業──特に韓国や東南アジアの企業に焦点を当て、クロスビー思想がどのように導入され、成果を挙げたかを見ていく。

第7章 アジア企業における展開

7-1 アジアにおけるクロスビー思想の受容

1980年代から1990年代にかけて、アジアの新興工業国は「輸出主導型経済」を軸に急成長を遂げた。韓国、台湾、シンガポール、マレーシアなどは、製造業を国の柱とし、グローバル市場で日本や欧米企業と競い合う立場に立った。

その過程で課題となったのが「品質」である。安価な労働力を武器に世界市場へ進出した当初は「安かろう悪かろう」という評価に甘んじたが、グローバル競争で勝ち残るには「高品質」こそが必須条件であった。そこで導入されたのがクロスビーの品質哲学である。彼の提唱する 「ゼロ・ディフェクト」「不適合コスト(PONC)の算出」 は、アジア企業が低コスト優位から脱却し、ブランド価値を築くための指針となった。

7-2 韓国企業における展開

(1)サムスン電子──「品質は誇り」の経営理念

1990年代初頭、サムスンは「安価だが品質に難がある」企業として世界市場で苦戦していた。日本製や欧米製に比べると「壊れやすい」「サポートが弱い」という評価が多かった。

そこで李健熙会長は「不良品を出すぐらいなら工場を潰せ」という強烈なメッセージを発し、品質改革に乗り出した。その際に参考にされたのがクロスビーの「ゼロ・ディフェクト」と「不適合コスト削減」の思想であった。

全社でPONCを算出したところ、売上の15%以上が不良や返品に消えていることが明らかになった。これを受けてPOC(教育・設計・工程改善)への投資が大幅に拡大し、品質教育は全社員に徹底された。その結果、サムスンは「安かろう悪かろう」から「高品質ブランド」へと飛躍し、今日のグローバル企業としての地位を築いたのである。

(2)LG電子──設計段階でのゼロ・ディフェクト

LGも同様に、1990年代には品質問題に悩まされていた。クロスビー思想の導入後、特に強化されたのが「設計段階でのゼロ・ディフェクト」であった。製造後に不良を発見するのではなく、設計の時点で「最初から正しく行う」ことを徹底する体制に変革した。これにより不適合コストが大幅に削減され、品質が競争力の源泉となった。

7-3 シンガポールと東南アジア企業の事例

(1)シンガポール航空──サービス品質への適用

シンガポール航空は「顧客サービスの品質」で世界をリードする航空会社である。同社はクロスビーの「Do it right the first time(一度で正しく行う)」という理念をサービス業に応用した。

機内サービスでは、接客、機内食、清掃、運航サポートに至るまで、社員教育にPOCを投資した。その結果、苦情件数が大幅に減少し、国際的な顧客満足度ランキングで常に上位を占めるようになった。これはクロスビー思想が製造業にとどまらず、サービス業にも普遍的に適用できることを示す好例である。

(2)マレーシア・エレクトロニクス産業

マレーシアは1980年代から輸出指向型のエレクトロニクス産業を育成してきた。しかし当初は「低価格労働力頼み」で品質問題が絶えなかった。そこで国策としてクロスビー的品質管理を含むTQM(Total Quality Management)が導入され、外国企業との合弁工場でも「ゼロ・ディフェクト」を標準とする活動が展開された。その結果、マレーシア製の電子部品は国際的に一定の信頼を獲得し、今日のグローバル・サプライチェーンに不可欠な存在となった。

7-4 台湾企業における展開

台湾の半導体産業は、今や世界を牽引する存在である。TSMCなどのファウンドリー企業は、極めて厳格な品質要求に応えることで顧客からの信頼を獲得してきた。その背景には、クロスビーの思想に通じる「不適合コストの徹底的な削減」と「予防投資(POC)の強化」がある。

特に、製造工程での「ゼロ・ディフェクト文化」は台湾の半導体産業の競争力を根幹から支えている。顧客である米国や欧州の半導体設計企業は、台湾の製造パートナーが「一度で正しく行う」ことを当然の前提として信頼を寄せている。

7-5 日本近隣国の適用例

韓国・台湾に次ぐ新興国

インド、ベトナムなど新興国企業でも、クロスビー的思想を取り入れる動きが見られる。特にインドの製薬業界では、FDAや欧州規制に対応するためにPOCへの投資が不可欠となり、教育訓練や品質マネジメント体制が強化された。これは「品質投資が市場参入条件」というクロスビー思想の実証である。

7-6 アジア事例の総括と示唆

アジアの企業がクロスビー思想を取り入れた理由は明快である。

  1. 「安かろう悪かろう」の評価から脱却したい
  2. グローバル市場で信頼を勝ち取りたい
  3. 品質を企業文化として根付かせたい

その結果、サムスンやLGはグローバルブランドへと飛躍し、シンガポール航空は世界最高峰のサービス品質を維持し、台湾の半導体企業は世界の最先端を走っている。

日本企業への示唆は大きい。かつて日本企業は「品質神話」で世界をリードしたが、いまや韓国・台湾・東南アジア企業がその役割を担っている。日本企業が再生するためには、クロスビー思想を「古いもの」として片づけるのではなく、改めて再解釈し、自らの文化に再導入する必要がある。

7-7 本章のまとめ

クロスビーの思想は、アジア各国の企業に「品質こそが競争力の源泉」という認識を与えた。韓国のサムスンとLGは「ゼロ・ディフェクト」によって世界的ブランドに飛躍し、シンガポール航空は「一度で正しく行う」をサービス品質に適用して世界一流の地位を築いた。台湾の半導体産業は「不適合コストの徹底削減」と「予防投資」の思想で世界市場をリードしている。

次章では、日本企業におけるクロスビー手法の適用と課題を詳しく取り上げ、「品質神話の再生」への道筋を探る。

第8章 日本企業における適用と課題

8-1 日本の「品質神話」とクロスビー思想

日本企業は戦後の廃墟から立ち上がる過程で、品質を競争力の核として世界市場に挑んだ。統計的品質管理(SQC)を導入し、QCサークル活動やTQC(Total Quality Control)を展開したことはよく知られている。これらは米国のデミング博士やジュラン博士の指導に端を発していたが、日本独自の現場力と融合し、「日本製=高品質」という世界的ブランドを築いたのである。

しかし1980年代後半以降、「品質神話」は徐々に自己目的化し、形式化していった。QCサークルが「改善ごっこ」と化す場面もあり、経営層が品質を戦略的に扱う姿勢は弱まり、現場任せが常態化していった。そのような状況のなかでクロスビーの思想──「品質は経営者の責任である」「ゼロ・ディフェクトは文化である」「不適合コストの可視化」──は、日本企業にとって新鮮な刺激となった。

8-2 クロスビー思想導入の試み

1980年代から90年代にかけて、日本のいくつかのグローバル企業はクロスビーの研修やコンサルティングを受けた。特に外資系企業の日本法人や、欧米市場で戦う必要があった企業では、その導入が進んだ。

(1)自動車業界

日本の自動車メーカーは世界的に高品質と評価されていたが、1990年代以降はリコール問題が頻発した。クロスビーの「不適合コスト(PONC)の算出」を導入した一部企業では、リコール対応費用やブランド毀損の潜在的損失が年間数千億円規模に上ることが可視化され、経営層が危機感を持つきっかけとなった。その後、工程設計段階での投資(POC)を拡大し、再発防止に努めるようになった。

(2)電機・電子業界

日本の電機メーカーもまた、クロスビーの思想を部分的に導入した。ある大手企業では、半導体事業の品質トラブルによって欧米顧客の信頼を失った際、クロスビー方式の「ゼロ・ディフェクト教育」を全社員研修に組み込み、製造工程での不良率を半年間で半減させた。

(3)外資系企業の日本法人

筆者自身の経験として、米国化粧品会社の日本法人でクロスビーの研修を受けたことがある。数日にわたるセッションで学んだ「ゼロ・ディフェクト」「PONCとPOCの対比」「品質は涙なく実現できる」という考え方は、現場社員の意識を大きく変えた。従来は「不良は仕方がない」という諦めがあったが、教育を通じて「最初から正しく行うことができる」という自信と誇りを持つようになった。その結果、返品率が大幅に減少し、顧客満足度も向上した。

8-3 日本企業における成功と失敗の分岐点

成功要因

  1. 経営トップのリーダーシップ
    経営者自らが「品質は最優先」と宣言し、資源を投じる場合、クロスビー思想は効果を発揮した。
  2. PONCの可視化
    不適合コストを金額で算出することで、品質投資が「コスト」ではなく「利益の源泉」であると経営陣が理解した。
  3. 教育・訓練の徹底
    「ゼロ・ディフェクト」を社員教育に組み込み、文化として根付かせた場合、組織全体が変わった。

失敗要因

  1. 形骸化
    スローガンや形式的イベントにとどまり、現場の意識や行動が変わらなかった。
  2. 短期利益優先
    POC投資を「コスト」と見なして削減し、結果的にPONCが拡大するケースが見られた。
  3. 現場依存
    経営層が品質を戦略として扱わず、現場任せにした結果、持続的効果が出なかった。

8-4 日本企業が直面する課題

(1)品質不正の連鎖

近年、日本の大手メーカーで品質データ改ざんや検査不正が相次いで報じられた。これは単なる現場の問題ではなく、経営層が「短期的納期・コスト圧力」を優先し、品質への信頼を犠牲にした結果である。クロスビーなら「品質は経営者の責任」と断じただろう。

(2)グローバル市場での信頼回復

欧米やアジアの競合が「ゼロ・ディフェクト文化」を浸透させているなか、日本企業は「かつての品質神話」に安住してきた。しかし、国際市場で信頼を再び勝ち取るには、クロスビーの哲学を再解釈し、グローバル基準に合致した品質マネジメントを徹底する必要がある。

(3)デジタル時代の品質

AI、IoT、DXの進展に伴い、品質問題は製造現場だけでなく、データやソフトウェアの分野に広がっている。クロスビーの「一度で正しく行う」という原則は、ソフトウェア開発やサービス提供の分野でも有効である。日本企業はこれを応用し、新しい時代に適応する必要がある。

8-5 本章のまとめ

日本企業はかつて世界をリードする品質を誇ったが、現在は品質不祥事やリコール問題が相次ぎ、その神話は崩れつつある。クロスビーの思想は、日本企業が「経営層の責任」「不適合コストの可視化」「ゼロ・ディフェクト文化」という原点に立ち返るための重要なヒントを与える。

成功事例もある一方で、形骸化や短期主義によって失敗したケースも多い。日本企業再生のためには、クロスビー哲学を「古典」ではなく「現代的課題に応用可能な実践原理」として再評価し、経営戦略の中心に据える必要がある。

次章では、クロスビーの手法をデミングやジュランといった他の品質管理思想と比較し、その独自性と相互補完性について掘り下げていく。

第9章 クロスビー手法と他の品質管理思想との比較

9-1 品質管理思想の三巨頭

20世紀後半の品質管理を語る際、必ず登場するのが デミング(W. Edwards Deming)ジュラン(Joseph M. Juran)、そして クロスビー(Philip B. Crosby) である。この三者はいずれも米国出身であるが、その思想は異なり、かつ補完的でもあった。デミングとジュランは日本の戦後復興に大きな影響を与えたが、クロスビーはむしろ1980年代以降の米欧企業再生に力を発揮した。

品質管理の歴史を俯瞰すれば、デミングが「統計的管理とシステム思考」、ジュランが「経営者責任と品質三部作」、クロスビーが「シンプルで分かりやすい哲学」と位置づけられる。それぞれの比較から、クロスビー手法の独自性を見ていこう。

9-2 デミングとの比較──PDCAとゼロ・ディフェクト

デミング博士は、統計的品質管理を基盤とした「PDCAサイクル」を広め、日本の品質革命を支えた。彼の思想の核は「品質は工程で作り込むものであり、検査でつくるものではない」という点にある。

一方クロスビーは「ゼロ・ディフェクト(Zero Defects)」を掲げ、工程管理を難解な統計ではなく「初めから正しく行う」という文化運動として推進した。

共通点

  • 欠陥を後工程で見つけるのではなく、最初から防止する重要性を強調。
  • 品質は経営に直結するという認識。

相違点

  • デミングは統計的手法やシステム思考を重視し、科学的管理を基盤とした。
  • クロスビーは難解さを排し、誰もが理解できる「ゼロ・ディフェクト」「要求への適合」というシンプルな言葉で浸透を図った。

示唆
日本企業はデミング的手法に親しんでいたが、時に専門家依存や形骸化に陥った。クロスビーの「シンプルさ」はその補完として有効である。

9-3 ジュランとの比較──品質三部作とPONC/POC

ジュラン博士は「品質は経営者の責任である」と強調し、品質活動を「品質三部作(Quality Trilogy)」として体系化した。すなわち、

  1. 品質計画(Quality Planning)
  2. 品質管理(Quality Control)
  3. 品質改善(Quality Improvement)

である。これは経営レベルのフレームワークとして非常に包括的であった。

クロスビーもまた「品質は経営者の責任」と強調したが、彼の独自性は「PONC(不適合コスト)とPOC(適合コスト)」という具体的な指標にある。ジュランが理論体系を示したのに対し、クロスビーは経営者に数字で訴えかけたのである。

共通点

  • 品質は経営課題であり、現場任せではならない。
  • 改善は継続的努力を必要とする。

相違点

  • ジュランは包括的理論を提供し、戦略的思考を重視。
  • クロスビーは「数字で可視化」し、経営層に直感的に理解させる実務性を持つ。

示唆
日本企業が経営層を巻き込むには、クロスビーの「PONC/POC算出」という実務的アプローチは極めて有効である。

9-4 日本的品質管理との比較──QCサークルとゼロ・ディフェクト

日本企業が独自に発展させたQCサークルやTQC活動は、現場の従業員が自主的に改善に取り組む仕組みであった。その強みは「現場力」と「ボトムアップ文化」にあり、世界から高く評価された。

しかし一方で、日本的品質管理は「現場任せ」になりやすく、経営層の責任が希薄化する傾向もあった。クロスビーはそこを鋭く突き、「品質は経営者の責任」「ゼロ・ディフェクトは組織文化」と強調した。

共通点

  • 「最初から正しく行う」「欠陥ゼロを目指す」という理念は共通。
  • 全員参加を重視。

相違点

  • 日本的品質管理は現場主導で細やかな改善を積み上げるスタイル。
  • クロスビーは経営者主導で文化変革を行うスタイル。

示唆
日本企業はQC活動を継続しつつ、クロスビー流に「経営層が品質を戦略に組み込む」ことが不可欠である。

9-5 相互補完と総合的な活用

デミング、ジュラン、クロスビーはアプローチが異なるが、対立するものではなく相互補完関係にある。

  • デミング:科学的・統計的手法による工程管理
  • ジュラン:戦略的経営フレームワーク
  • クロスビー:シンプルで直感的な哲学とコスト指標

企業が本当に競争力を高めるには、これらを組み合わせて活用することが望ましい。たとえば、日本企業がデミング的手法で工程を磨き、ジュラン的思考で戦略を描き、クロスビー的哲学で全社員を動かす──その融合が21世紀の品質経営において最強の武器となる。

9-6 日本企業への示唆

比較を通じて浮かび上がるのは、日本企業の課題が「経営層の関与不足」と「現場任せ文化」に偏っていることである。クロスビー思想は、これを正すための強力な補完手段となる。

  • 「品質は経営者の責任」というクロスビーの原則を改めて導入する。
  • デミング的な工程管理とクロスビー的なゼロ・ディフェクト文化を融合させる。
  • ジュラン的戦略思考を加え、品質をグローバル経営戦略の柱とする。

9-7 本章のまとめ

クロスビー手法は、デミングやジュラン、日本的品質管理と比較することで、その独自性が際立つ。彼の最大の強みは「シンプルな哲学」と「コストによる可視化」であり、これは経営層と現場をつなぐ橋渡し役となる。

日本企業はこれらを総合的に活用することで、かつての品質神話を「伝説」ではなく「再生の現実」として取り戻すことができる。

次章では、現代の日本企業にとってクロスビー思想がどのような意味を持ち、デジタル化・グローバル化の時代にどのように再解釈できるかを探っていく。

第10章 現代日本企業への示唆

10-1 クロスビー思想の再評価が必要な理由

かつて「品質立国」と呼ばれた日本は、製造業の強みを背景に世界市場を席巻した。しかし、21世紀に入り品質不祥事や大規模リコールが相次ぎ、「品質神話」は揺らいでいる。さらに、グローバル競争の激化、デジタル技術の進展、人口減少による人材不足など、状況はかつてとは大きく異なる。

このような環境下で改めてクロスビー思想を再評価する理由は三つある。

  1. 品質は経営者の責任であるという原則が、日本企業に再び必要とされている。
  2. 不適合コスト(PONC)の可視化は、経営層に危機感を与え、意思決定を変える力を持つ。
  3. ゼロ・ディフェクト文化は、現場だけでなく組織全体を活性化し、若手人材のモチベーションを引き上げる。

10-2 デジタル時代における応用

(1)ソフトウェア品質への適用

日本企業がDXを推進する中で、ソフトウェア開発における品質問題が経営課題として浮上している。クロスビーの「Do it right the first time(最初から正しく行う)」は、アジャイル開発やDevOpsの世界にも通じる考え方である。バグ修正のコストはリリース後に発見されると数十倍に膨らむ。PONCとPOCの概念をソフトウェア開発に適用すれば、早期のテスト自動化や教育投資の正当性が数字で示せる。

(2)データ品質管理

AIやビッグデータを活用する時代においては、データの不整合や欠損もまた「不適合コスト」である。誤ったデータに基づく意思決定は、企業の競争力を一気に失わせる。クロスビーの枠組みを適用すれば、データクレンジングやガバナンス体制への投資は「適合コスト(POC)」であり、長期的には利益を守る施策である。

10-3 グローバル化時代の示唆

(1)国際競争における「品質の言語化」

クロスビーの「品質とは要求への適合である」という定義は、文化や国境を超えて通用する。日本的品質管理が「暗黙知」や「現場力」に依存していたのに対し、クロスビーの哲学はシンプルで明快なため、海外拠点の従業員にも共有しやすい。

(2)多文化環境におけるゼロ・ディフェクト文化

グローバル企業では、多様な文化背景を持つ社員が協働する。共通の基盤として「ゼロ・ディフェクト」を掲げれば、文化差を越えて「最初から正しく行う」という行動原則が組織に根付く。実際、シンガポール航空や台湾半導体産業の事例は、日本企業が多文化組織をマネジメントする際の参考となる。

10-4 日本企業が直面する構造的課題

(1)人口減少と人材不足

労働人口が減少する中で、不良品や手戻りを繰り返す余裕はない。「ゼロ・ディフェクト文化」の浸透は、人材不足を補う最も有効な手段である。不良を減らし、一度で正しく仕上げることは、限られた人材で高い生産性を維持するために必須である。

(2)品質不正とガバナンス

近年の品質データ改ざんは「現場に任せきり」「短期利益優先」という文化が根底にある。クロスビーの「品質は経営者の責任」という原則を再導入し、取締役会レベルで品質指標を監視する体制が必要である。

(3)中小企業と品質管理

大企業だけでなく、中小企業においてもPONCは深刻な負担である。限られたリソースであればこそ、「不良を出さない文化」を徹底することで、大きな競争力を獲得できる。クロスビーの思想は規模に関係なく適用可能である。

10-5 実践への提言

(1)PONCの定量化を経営指標に組み込む

日本企業はコスト削減に敏感であるが、PONCの算出はまだ一般化していない。まず「不適合コストが売上の何%か」を可視化し、経営層に突きつけるべきである。これが投資判断を変える出発点になる。

(2)POCを「戦略投資」と再定義する

教育、研修、設計段階の検証、データガバナンスなどはすべてPOCである。これらを削減対象ではなく「利益を生む投資」と認識することが肝要である。

(3)ゼロ・ディフェクト文化を若手人材育成に活かす

若手社員に「失敗から学べ」だけではなく、「最初から正しく行える」という誇りと責任感を植え付けるべきである。これが人材定着率やモチベーションの向上につながる。

10-6 本章のまとめ

現代日本企業において、クロスビー思想は単なる過去の品質管理手法ではなく、未来への指針である。

  • デジタル時代にはソフトウェア・データ品質管理に応用できる。
  • グローバル化時代には文化を越えた共通理念として有効である。
  • 人口減少時代には生産性を高める武器となる。

「品質は経営者の責任である」「ゼロ・ディフェクトは文化である」「不適合コストを可視化せよ」というクロスビーの原則は、日本企業再生の羅針盤となりうる。

次章では、これまでの議論を総合し、日本企業がクロスビー思想を取り入れながら再生への道を歩むための具体的戦略を提示する。

第11章 日本企業再生への戦略的提言

11-1 日本企業が直面する危機と再生の必然性

かつて「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と称された日本企業は、品質を武器に世界市場を席巻した。しかし現在は、

  • 品質不祥事の頻発
  • グローバル競争における地位低下
  • 人口減少と人材不足
  • DXやAI時代への対応の遅れ

といった複合的な課題に直面している。
この状況は一過性の危機ではなく、構造的な問題である。したがって「従来型の改善活動」では不十分であり、根本的な変革が求められる。ここで再評価すべきが、クロスビーが提唱した「Quality Without Tears(涙なき品質管理)」である。

11-2 日本企業再生の3本柱

(1)経営者主導の品質戦略

クロスビーは「品質は経営者の責任である」と明言した。日本企業はQCサークルやTQCによって現場力を磨いてきたが、経営層の関与が希薄だったことが神話崩壊の一因である。今後は、取締役会レベルで「品質指標(PONC・POC・顧客満足度など)」を管理する仕組みを制度化することが不可欠である。

(2)不適合コスト(PONC)の可視化と公開

日本企業の多くは依然として「品質コスト」を体系的に算出していない。まずは各企業が「売上の何%が不適合コストに消えているのか」を定量化し、社内外に公表することが有効である。これにより、経営層に緊張感が生まれ、投資判断の優先順位が変わる。

(3)ゼロ・ディフェクト文化の再構築

日本のQC活動は「小集団による改善」を重視してきたが、今日必要なのは「全社的に不良を出さない文化」の再構築である。これは「スローガン運動」ではなく、教育・評価制度・表彰・リーダーシップによって実際に行動として根付かせなければならない。

11-3 戦略的提言の具体化

  1. 経営層への提言
  • 取締役会に品質委員会を設置し、四半期ごとにPONC・POCを報告対象とする。
  • 品質を投資判断のKPIに組み込み、短期利益よりも長期的競争力を重視する。
  • 海外拠点やサプライチェーン全体にゼロ・ディフェクト文化を広げ、国際的に一貫した基準を持つ。
  1. 現場への提言
  • QCサークルを「自主的改善活動」から「ゼロ・ディフェクト活動」へ進化させる。
  • 「失敗から学ぶ」文化と「最初から正しく行う」文化を両立させ、組織全体の学習能力を高める。
  • デジタル技術(IoT・AI)を活用し、エラーを未然に検知する仕組みを現場に導入する。
  1. 社会・産業界への提言
  • 業界横断で「品質指標の共通ベンチマーク」を設定し、国際競争力を強化する。
  • 大学・専門学校教育に「ゼロ・ディフェクト哲学」と「品質マネジメント」を組み込み、若手人材を育成する。
  • 国として「品質立国再生戦略」を掲げ、海外に向けて「メイド・イン・ジャパン」の信頼を再構築する。

11-4 欧米・アジアの成功事例からの学び

  • 欧米企業:フォードやIBMは「PONCの可視化」と「POC投資」で品質と利益を両立させた。
  • 韓国企業:サムスンは「品質は誇り」という文化を構築し、ブランド力を世界一流に押し上げた。
  • 台湾企業:TSMCは「ゼロ・ディフェクト文化」を徹底し、半導体の世界的リーダーとなった。

これらの事例が示すのは、日本企業が再生できない理由は「能力不足」ではなく「意思と仕組みの欠如」にあるということである。

11-5 日本企業再生のロードマップ

  1. 第1段階:現状把握
    • PONCの算出と社内共有
    • 経営層へのレポートラインの確立
  2. 第2段階:POC投資の拡大
    • 教育訓練、設計検証、データガバナンスへの戦略的投資
    • 人材育成とデジタル技術導入
  3. 第3段階:文化変革
    • ゼロ・ディフェクトを全社員の行動指針として浸透
    • 表彰制度やキャリア評価に組み込む
  4. 第4段階:グローバル展開
    • 海外拠点への一貫した品質基準の展開
    • サプライチェーン全体で品質文化を共有
  5. 第5段階:社会的信頼の回復
    • 品質指標の外部公開
    • 「日本=品質」のブランド再構築

11-6 本章のまとめ

日本企業の再生は、クロスビー思想を経営戦略の中核に据えることで実現可能である。

  • 経営層が責任を持ち、PONCを可視化する。
  • POCを投資と捉え、教育・設計・データ管理に資源を投じる。
  • ゼロ・ディフェクト文化を再構築し、現場の力と融合させる。

欧米やアジアの成功事例は、日本企業が本気になれば再び「品質立国」として復活できることを示している。クロスビーが遺した「品質は無料である(Quality is Free)」という挑発的メッセージは、今こそ日本企業の羅針盤である。

次章(終章)では、本書全体の総括として「Quality Without Tears」が日本企業と世界に与える普遍的意義をまとめ、未来への展望を示す。

終章 Quality Without Tears が示す未来への展望

E-1 クロスビー思想の普遍性

フィリップ・B・クロスビーの提唱した「Quality Without Tears(涙なき品質管理)」は、単なる品質改善の手法にとどまらず、組織と社会のあり方に深い示唆を与える哲学である。その核心は次の三点に集約される。

  1. 品質は要求への適合である──曖昧な理想論ではなく、顧客と社会の期待に正しく応えること。
  2. 品質は経営者の責任である──現場任せにせず、トップマネジメントが戦略として品質を担うこと。
  3. 品質は無料である──不良や手戻りに伴う損失を防ぐことによって、投資以上の利益が必ず返ってくること。

この原理は製造業に限らず、サービス業、IT、医療、教育などあらゆる分野に適用可能である。品質は涙や犠牲を伴うものではなく、むしろ人々の誇りと喜びを生み出すものである──これがクロスビーの普遍的メッセージである。

E-2 未来社会における品質の意味

(1)デジタル化社会

AI・IoT・クラウドが社会基盤となる時代、品質とは「データの正確性」「アルゴリズムの透明性」「ユーザー体験の一貫性」に拡張される。クロスビーの「最初から正しく行う」は、ソフトウェアやデータサイエンスにおいても絶対的な原則となる。

(2)グローバル多文化社会

異文化が交わる職場では、共通の行動指針が必要である。「ゼロ・ディフェクト」という明快な理念は文化や言語を超えて共有されやすく、国際協働の基盤となる。

(3)サステナビリティ時代

環境問題や資源制約が強まる未来において、不良や無駄の削減は単なる経済合理性を超え、地球規模の責任でもある。クロスビーの思想は、サステナビリティ経営の文脈でも再評価される。

E-3 日本企業への未来戦略

  1. 品質をDXと融合させる
    IoTセンサーによる不良検知、AIによる予知保全、デジタルツインを用いた設計検証など、デジタル技術とクロスビー思想を組み合わせることで、ゼロ・ディフェクトを新次元で実現できる。
  2. 若手人材の育成に組み込む
    ゼロ・ディフェクトは単なる品質管理ではなく、プロフェッショナルとしての誇りを育む教育理念となる。大学・企業研修に組み込むことで、次世代のリーダーが「最初から正しく行う」姿勢を自然に身につける。
  3. 社会的信頼の回復
    品質不祥事に揺らぐ日本企業は、クロスビー思想を旗印として「日本=信頼できる品質」というブランドを再構築する必要がある。これは単なる企業戦略ではなく、国際社会における日本の存在意義を再定義する作業でもある。

E-4 欧米・アジアとの連帯

欧米企業はクロスビー思想を用いて復権し、アジア企業はそれを応用して飛躍した。今後は、日本企業が再び世界と肩を並べ、クロスビー思想を共通基盤とした「品質による国際協働」を進めるべきである。サプライチェーンが複雑化する中で、ゼロ・ディフェクト文化は国境を越えた信頼構築の要となる。

E-5 終わりに──「涙なき品質管理」が導く未来

クロスビーの言葉を借りれば、「品質は無料である」。それは単に費用の話ではなく、人々が涙を流さず、誇りと喜びを持って働ける環境を創るという意味である。

日本企業が再生し、世界が持続可能な未来を歩むためには、「Quality Without Tears」を単なる過去の概念としてではなく、未来を切り開く哲学として捉える必要がある。

今、私たちに求められているのは、

  • 不適合コストを減らすことで利益を守り、
  • 適合コストに投資することで人を育て、
  • ゼロ・ディフェクト文化によって社会に信頼をもたらすことである。

クロスビーの思想は、日本企業再生の道であり、世界に向けて「品質立国」の誇りを再び示す羅針盤となるだろう。

参考文献一覧(APA第7版形式)

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投稿者プロフィール

市村 修一
市村 修一
【略 歴】
茨城県生まれ。
明治大学政治経済学部卒業。日米欧の企業、主に外資系企業でCFO、代表取締役社長を経験し、経営全般、経営戦略策定、人事、組織開発に深く関わる。その経験を活かし、激動の時代に卓越した人財の育成、組織開発の必要性が急務と痛感し独立。「挑戦・創造・変革」をキーワードに、日本企業、外資系企業と、幅広く人財・組織開発コンサルタントとして、特に、上級管理職育成、経営戦略策定、組織開発などの分野で研修、コンサルティング、講演活動等で活躍を経て、世界の人々のこころの支援を多言語多文化で行うグローバルスタートアップとして事業展開を目指す決意をする。

【背景】
2005年11月、 約10年連れ添った最愛の妻をがんで5年間の闘病の後亡くす。
翌年、伴侶との死別自助グループ「Good Grief Network」を共同設立。個別・グループ・グリーフカウンセリングを行う。映像を使用した自助カウンセリングを取り入れる。大きな成果を残し、それぞれの死別体験者は、新たな人生を歩み出す。
長年実践研究を妻とともにしてきた「いきるとは?」「人間学」「メンタルレジリエンス」「メンタルヘルス」「グリーフケア」をさらに学際的に実践研究を推し進め、多数の素晴らしい成果が生まれてきた。私自身がグローバルビジネスの世界で様々な体験をする中で思いを強くした社会課題解決の人生を賭ける決意をする。

株式会社レジクスレイ(Resixley Incorporated)を設立、創業者兼CEO
事業成長アクセラレーター
広島県公立大学法人叡啓大学キャリアメンター

【専門領域】
・レジリエンス(精神的回復力) ・グリーフケア ・異文化理解 ・グローバル人財育成 
・東洋哲学・思想(人間学、経営哲学、経営戦略) ・組織文化・風土改革  ・人材・組織開発、キャリア開発
・イノベーション・グローバル・エコシステム形成支援

【主な著書/論文/プレス発表】
「グローバルビジネスパーソンのためのメンタルヘルスガイド」kindle版
「喪失の先にある共感: 異文化と紡ぐ癒しの物語」kindle版
「実践!情報・メディアリテラシー: Essential Skills for the Global Era」kindle版
「こころと共感の力: つながる時代を前向きに生きる知恵」kindle版
「未来を拓く英語習得革命: AIと異文化理解の新たな挑戦」kindle版
「グローバルビジネス成功の第一歩: 基礎から実践まで」Kindle版
「仕事と脳力開発-挫折また挫折そして希望へ-」(城野経済研究所)
「英語教育と脳力開発-受験直前一ヶ月前の戦略・戦術」(城野経済研究所)
「国際派就職ガイド」(三修社)
「セミナーニュース(私立幼稚園を支援する)」(日本経営教育研究所)

【主な研修実績】
・グローバルビジネスコミュニケーションスキルアップ ・リーダーシップ ・コーチング
・ファシリテーション ・ディベート ・プレゼンテーション ・問題解決
・グローバルキャリアモデル構築と実践 ・キャリア・デザインセミナー
・創造性開発 ・情報収集分析 ・プロジェクトマネジメント研修他
※上記、いずれもファシリテーション型ワークショップを基本に実施

【主なコンサルティング実績】
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