数字でだまされないメディアリテラシー―統計・世論調査・グラフの嘘を見抜く方法

シエアする:

数字でだまされないメディアリテラシー―統計・世論調査・グラフの嘘を見抜く方法

本記事は、連載「オールドメディアとネット時代の情報検証――認知戦・データサイエンス・OSINTから読み解く誤報と偏向報道【全10回】」の第6回である。

第6回では、報道で使われる統計、世論調査、割合、平均値、ランキング、グラフを読み解くためのデータリテラシーを扱う。数字そのものと、その数字に与えられた解釈を区別し、分母、母集団、標本、調査方法、質問文、比較期間、相関と因果などを確認する実践的な方法を提示する。

はじめに――数字は客観的に見えるからこそ、注意が必要である

「支持率が急落した」

「犯罪が二倍に増えた」

「利用者の九割が満足している」

「専門家の多数が支持している」

「この地域は全国平均より危険である」

ニュースに数字が示されると、説明全体が科学的で客観的なものに見える。

意見には反論できても、数字には反論しにくい。数字は、発言者の感情や価値観から切り離された事実のように感じられるからである。

しかし、数字は、社会の現実そのものではない。

何を数えるか。

誰を対象にするか。

どの期間を比べるか。

どのような質問をするか。

どの数字を見出しに使うか。

どのグラフを作るか。

こうした選択を経て、数字は報道へ組み込まれる。

たとえば、ある犯罪が前年の1件から2件へ増えた場合、「2倍に急増した」と表現できる。増加率は100%であり、計算自体は間違っていない。

しかし、実数では1件増えただけである。

反対に、1万件から1万1千件へ増えた場合、増加率は10%であるが、実数では千件増えている。

同じ「増加」でも、割合と実数のどちらを使うかによって、受け手の印象は変わる。

世論調査で、内閣支持率が前月の42%から39%へ下がったとする。

見出しには「支持率3ポイント下落」と書ける。

しかし、調査対象者の抽出方法、回答者数、回答率、標本誤差を確認しなければ、本当に世論全体が変化したのか、調査上の揺れなのかを判断できない。

数字を使った報道が、すべて意図的な操作であるわけではない。

限られた文字数で複雑なデータを説明するには、要約が必要である。読者に理解してもらうため、重要な数字を選ばなければならない。

問題は、数字が示された瞬間に、私たちが検証をやめてしまうことである。

数字は嘘をつかない、と言われる。

より正確に言えば、数字は自分から嘘をつかない。

しかし、人は数字を選び、並べ、比較し、解釈することによって、誤った印象を作ることができる。

第1章 データとは現実を一定の基準で切り取ったものである

データとは、観察、測定、記録などによって得られた情報である。

人口、所得、失業率、犯罪件数、感染者数、支持率、売上高など、社会では多くのデータが使われる。

しかし、データは現実の完全な複製ではない。

ある現象を測定するには、何を数えるかを決めなければならない。

「失業者」を数える場合、仕事を探しているが見つからない人を含めるのか。就職を諦め、求職活動をしていない人をどう扱うのか。短時間だけ働いている人は失業者なのか。

「犯罪件数」を数える場合、警察が認知した事件だけを数えるのか。被害届が出されていない事件はどうするのか。一件の出来事に複数の犯罪が含まれる場合はどう数えるのか。

「貧困」を測る場合、所得だけを見るのか。資産、住宅、医療、教育へのアクセスも含めるのか。

定義が変われば、数字も変わる。

したがって、数字を見たときには、最初に「何を、どのような基準で数えた数字なのか」を確認する必要がある。

第2章 数字は「測定」と「推計」に分けて考える

報道に登場する数字には、直接測定されたものと、一定の方法で推計されたものがある。

人口を全員調査する国勢調査のようなものは、全数調査に近い。

一方、世論調査、視聴率、平均所得、商品の満足度などは、社会全体の一部を調査し、全体の傾向を推計する場合が多い。

「国民の6割が賛成している」という表現を見ても、全国民へ質問したわけではない。

通常は、選ばれた数百人または数千人の回答を基に、国民全体の傾向を推計している。

推計であることは、調査が信頼できないという意味ではない。

適切な抽出方法と十分な回答数があれば、一部の調査から全体の傾向をかなり正確に推定できる。

問題は、推計値を誤差のない確定値のように扱うことである。

第3章 母集団と標本を区別する

統計調査を読むうえで、最も基本的な概念が母集団と標本である。

母集団とは、知りたい対象の全体である。

日本の有権者全体。

特定の製品を購入した人全体。

ある地域の住民全体。

標本とは、母集団から実際に調査された一部の人々である。

世論調査の回答者。

商品アンケートへ回答した利用者。

病院の研究へ参加した患者。

標本が母集団を適切に代表していなければ、回答者数が多くても結果は偏る。

たとえば、若者の政治意識を調べるため、固定電話だけで調査すれば、対象者の構成が偏る可能性がある。

特定の新聞の読者だけへ政治意識を尋ねれば、その新聞を読まない人の意見は反映されにくい。

インターネット上で自由回答のアンケートを行えば、テーマに強い関心を持つ人が多く参加する可能性がある。

重要なのは、何人に聞いたかだけではない。

誰に、どのような方法で聞いたかである。

第4章 回答者数が多ければ信頼できるとは限らない

「1万人が回答した大規模調査」と聞くと、信頼性が高いように感じる。

確かに、適切に抽出された標本では、回答者数が増えるほど推計の不確実性は小さくなる。

しかし、標本の選び方が偏っていれば、人数を増やしても偏りは解消されない。

特定の政党支持者が集まるウェブサイトで、10万人へアンケートを行ったとする。

回答者数は非常に多い。

しかし、そのサイトを利用しない人は調査に参加していない。

結果は、そのサイト利用者の意見を示していても、国民全体の意見を示しているとは限らない。

少人数でも適切に抽出された調査の方が、大人数の自由参加型アンケートより、母集団の傾向を正確に反映する場合がある。

「1万人が回答」という数字だけでなく、抽出方法を確認しなければならない。

第5章 無作為抽出とは「誰でも回答できること」ではない

無作為抽出とは、母集団の各対象者が、一定の確率で標本へ選ばれる方法である。

これは、「インターネット上で誰でも自由に回答できる」という意味ではない。

自由参加型のアンケートでは、回答するかどうかを本人が決める。

テーマに強い賛成や反対を持つ人ほど参加しやすく、中立的な人や関心の薄い人は参加しにくい。

これを自己選択バイアスという。

たとえば、ある番組について「打ち切るべきか」とSNSで投票を行えば、その番組に強い不満を持つ人が集中的に参加する可能性がある。

投票結果が90%の賛成でも、社会全体の90%が同じ考えとは限らない。

ネット投票は、参加者の意見を知る手掛かりにはなる。

しかし、代表性のある世論調査として扱うべきではない。

第6章 回答率が低いと何が起こるのか

調査対象として選ばれても、全員が回答するとは限らない。

電話に出ない。

調査を断る。

質問に答えない。

途中で回答をやめる。

回答率が低いと、回答した人と回答しなかった人の間に、何らかの違いがある可能性が生まれる。

政治への関心が高い人だけが回答する。

時間に余裕のある人が回答しやすい。

特定のテーマへ強い不満を持つ人が回答する。

このような違いが調査結果へ影響する場合、非回答バイアスが生じる。

ただし、回答率が低ければ必ず調査が無効になるわけではない。

回答者の属性を調整したり、複数の調査方法を組み合わせたりすることで、偏りを減らすことができる。

読者が確認すべきなのは、回答率だけでなく、調査機関が非回答の影響をどのように補正したかである。

第7章 標本誤差は「調査が間違っている」という意味ではない

標本調査では、母集団の一部を使って全体を推計するため、結果には一定の揺れがある。

これを標本誤差という。

たとえば、支持率が40%と公表されても、母集団全体の真の値が厳密に40.0%であると確定したわけではない。

一定の範囲にあると推定している。

そのため、前月41%、今月39%という結果だけで、「支持が明確に低下した」と断定できない場合がある。

調査上の揺れの範囲に収まっている可能性があるからである。

標本誤差は、調査の失敗ではない。

標本調査に本質的に伴う不確実性である。

問題は、報道が推計値の小さな差を、確定的な変化として扱うことである。

第8章 誤差の範囲以外にも調査の誤りはある

世論調査の記事では、「誤差はプラスマイナス3ポイント」などと説明されることがある。

しかし、調査の不確実性は、標本誤差だけではない。

回答しなかった人の偏り。

電話やインターネットなど調査方法の違い。

質問文の表現。

質問の順序。

回答者が本音を言わない可能性。

調査対象者名簿の不足。

集計や重み付けの方法。

これらは、標本誤差の数字には完全に含まれない。

したがって、「誤差の範囲を示しているから、調査は完全に信頼できる」とも言えない。

一つの誤差表示だけでなく、調査設計全体を見る必要がある。

第9章 質問文が回答を変える

世論調査では、何を質問したかだけでなく、どのように質問したかが重要である。

「政府は防衛力を強化すべきだと思いますか」

「増税を伴っても、政府は防衛力を強化すべきだと思いますか」

「周辺国の軍事的脅威に備えるため、政府は防衛力を強化すべきだと思いますか」

これらは似たテーマを尋ねているが、回答は異なる可能性がある。

負担を示すか。

危険を示すか。

政策の目的を示すか。

質問文に含まれる言葉が、回答者の判断へ影響する。

「改革」「削減」「負担」「支援」「安全」「危険」などの言葉には、感情的な意味がある。

世論調査の結果だけを読むのではなく、実際の質問文を確認する必要がある。

第10章 質問の順番も回答へ影響する

同じ質問文でも、前にどのような質問をしたかによって、回答が変わる場合がある。

最初に景気の悪化について質問し、その後で内閣支持を尋ねれば、経済への不満が支持判断へ影響する可能性がある。

安全保障上の脅威を強調する質問の後で防衛費について尋ねれば、賛成が増えるかもしれない。

政治家の不祥事について詳しく聞いた後で政党支持を尋ねれば、直前の話題が判断へ影響する。

世論調査を見る際には、単独の質問だけでなく、質問票全体と順番を確認することが望ましい。

第11章 選択肢の作り方が結果を変える

回答者に示される選択肢も、調査結果へ影響する。

「賛成」「反対」の二択なのか。

「賛成」「どちらかといえば賛成」「どちらかといえば反対」「反対」の四択なのか。

「分からない」「判断できない」という選択肢があるのか。

選択肢が二つしかなければ、本当は判断を保留したい人も、どちらかを選ばなければならない。

一方、「どちらとも言えない」を設けると、判断を避けたい人が集まりやすくなる場合がある。

複数回答を認めるかどうかでも結果は変わる。

「最も重要な問題を一つ選んでください」と聞く場合と、「重要だと思う問題をすべて選んでください」と聞く場合では、得られる数字の意味が異なる。

第12章 世論調査は「世論そのもの」ではない

世論調査は、特定の時点で、特定の質問に対し、選ばれた回答者が示した反応を集計したものである。

世論は、質問される前から、固定された形で社会に存在しているとは限らない。

多くの人は、すべての政策について明確な意見を持っているわけではない。

質問されたときに初めて考え、直前に得た情報や言葉の印象を使って答える場合がある。

したがって、世論調査は世論を測定するだけでなく、回答者に問題の枠組みを示す働きも持つ。

「国民の七割が反対」といった見出しを見たときには、どのような質問に対する反対なのかを確認する必要がある。

第13章 割合を見る前に分母を確認する

割合は、ある数を全体の数で割ったものである。

分母が変われば、同じ件数でも割合は変わる。

たとえば、ある地域で事故が100件発生したとする。

人口1万人の地域なら、人口当たりの事故率は高い。

人口100万人の地域なら、事故率は低い。

件数だけで地域の危険性を比較することはできない。

病気の患者数、犯罪件数、倒産件数、外国人の検挙件数なども同じである。

対象人口や活動量が増えれば、件数が増えるのは自然である。

「外国人による犯罪件数が増えた」という報道なら、在留外国人数の変化も確認する。

「高齢者事故が増えた」という報道なら、高齢者人口や運転者数の変化も見る。

「観光地で事故が多い」という報道なら、訪問者数を考慮する。

分母のない割合はなく、分母を無視した件数比較にも限界がある。

第14章 パーセントとパーセントポイントを区別する

支持率が40%から50%へ上がった場合、差は10パーセントポイントである。

増加率としては、40%を基準に25%増えたことになる。

この二つは異なる。

5%から10%へ上がった場合、差は5パーセントポイントだが、増加率は100%である。

「5%増えた」という表現が、5パーセントポイントの増加なのか、元の値に対して5%増えたのかは曖昧である。

報道では、この違いが混同されることがある。

数字の変化を見るときには、差なのか、相対的な増加率なのかを確認する必要がある。

第15章 相対リスクと絶対リスク

健康や安全に関する報道では、「リスクが2倍になった」「発症率が50%上昇した」といった表現が使われる。

このような相対的な変化は、強い印象を与える。

しかし、元のリスクが非常に小さい場合、絶対的な増加は小さい。

ある出来事の発生確率が1万人に1人から、1万人に2人へ増えたとする。

相対的には2倍である。

しかし、絶対的な増加は1万人に1人である。

一方、10人に1人から10人に2人へ増えた場合も、相対的には2倍だが、社会的意味は大きく異なる。

「リスクが2倍」という見出しだけでなく、実際に何人から何人へ変化したかを見る必要がある。

第16章 平均値は典型的な人を示すとは限らない

平均値は、多数の数字を一つにまとめる便利な指標である。

しかし、平均には複数の種類がある。

一般に平均と呼ばれる算術平均。

数字を小さい順に並べた中央の値である中央値。

最も多く現れる値である最頻値。

所得や資産のように、一部の非常に大きな値がある場合、算術平均は上に引き上げられる。

9人の年収が300万円で、1人の年収が1億円なら、平均年収は多くの人の実感から大きく離れる。

「平均貯蓄額」「平均所得」「平均住宅価格」などを見るときには、中央値も確認する必要がある。

平均値だけで、「普通の人」の生活を表しているとは限らない。

第17章 平均の平均は計算できない場合がある

複数の集団の平均値を、そのまま足して割ると誤った結果になることがある。

たとえば、A組では10人の平均点が80点、B組では90人の平均点が60点だったとする。

二つの平均を足して2で割れば70点になる。

しかし、全体の平均は、人数を考慮して計算しなければならない。

人数の違いを無視した単純平均は、全体を正しく表さない。

地域別平均、学校別平均、企業別平均などをまとめる場合には、それぞれの対象数を確認する必要がある。

第18章 中央値にも限界がある

平均値の問題を避けるため、中央値が使われることがある。

中央値は、極端に大きい値や小さい値の影響を受けにくい。

しかし、中央値だけでも分布の全体は分からない。

二つの社会が同じ所得中央値を持っていても、一方は多くの人の所得が中央値付近に集まり、もう一方は所得格差が非常に大きいかもしれない。

平均値、中央値、ばらつき、分布を合わせて見ることが重要である。

一つの代表値だけで全体を理解しようとしてはならない。

第19章 ランキングは評価基準によって作られる

「世界で最も住みやすい都市」

「教育水準が高い国」

「幸福度ランキング」

「企業の人気順位」

ランキングは分かりやすく、報道されやすい。

しかし、順位は自然に存在するものではない。

何を評価項目にするか。

各項目へどの程度の重みを付けるか。

どのデータを使うか。

欠測値をどう扱うか。

これらによって順位は変わる。

治安、所得、環境、住宅費、自由、医療、教育のうち、何を重視するかによって、「住みやすい都市」は異なる。

1位と2位の得点差がごく小さい場合もある。

順位だけでなく、評価方法、得点差、前年からの計算方法の変更を確認する必要がある。

第20章 比較期間を変えれば上昇にも下降にも見える

株価、物価、犯罪、出生数、支持率などの時系列データは、どの期間を選ぶかによって印象が変わる。

過去1か月では上昇。

過去1年では下降。

過去10年では横ばい。

いずれも同じデータについて成立する場合がある。

報道が、劇的な変化が見える期間だけを選べば、長期的傾向を誤解させる。

短期的な変化を見ることが必要な場合もある。

しかし、短期変動と長期傾向を区別しなければならない。

「過去最高」「過去最低」という表現でも、統計が開始された年を確認する必要がある。

調査開始から数年しかたっていない場合、「史上最高」とは意味が異なる。

第21章 基準年を選ぶことで印象を変えられる

比較の出発点となる基準年も重要である。

景気が一時的に大きく落ち込んだ年を基準にすれば、その後の数値は大幅に回復したように見える。

異常に高かった年を基準にすれば、現在の値は大きく減少したように見える。

感染症、災害、金融危機など特殊な出来事があった年を基準にすると、通常期との比較が難しくなる。

「前年より増加」という情報だけでなく、数年間の推移を見ることが重要である。

第22章 季節変動を無視してはならない

売上、旅行者数、雇用、電力消費、感染症などには、季節による変化がある。

夏と冬。

連休前後。

年度末。

新学期。

農産物の収穫時期。

これらを考慮せず、前月と単純比較すると誤った印象を生む。

12月の小売売上が11月より増えることは、特別な景気回復ではなく、年末商戦の影響かもしれない。

感染症が特定の季節に増えるなら、前月比較より前年同月比較が適切な場合がある。

報道で「前月より増加」と示されたときには、季節調整済みかどうかを確認する必要がある。

第23章 名目値と実質値を区別する

経済報道では、名目値と実質値が使われる。

名目値は、その時点の価格で表した金額である。

実質値は、物価変動の影響を調整した値である。

賃金が3%上がっても、物価が5%上がれば、実際に購入できる物やサービスは減る可能性がある。

売上高が増えても、価格上昇だけが原因なら、販売数量が増えたとは限らない。

「賃金上昇」「売上増」「GDP増加」という見出しを見たときには、名目か実質かを確認する必要がある。

第24章 一人当たりの数字と総額の数字

国の経済規模、医療費、エネルギー消費、犯罪件数などでは、総額と一人当たりの数字が異なる意味を持つ。

人口の多い国は、GDP総額が大きくなりやすい。

しかし、一人当たりGDPでは順位が変わる。

人口が増えれば、医療費総額や犯罪件数が増える可能性がある。

政策の財政規模を見る場合には総額が重要であり、生活水準や負担を比較する場合には一人当たりの数字が重要になる。

どちらか一方が正しいのではない。

何を知りたいかによって、適切な指標が異なる。

第25章 相関関係は因果関係ではない

二つの数字が一緒に増減していても、一方が他方の原因とは限らない。

アイスクリームの売上と水難事故は、同じ時期に増える可能性がある。

しかし、アイスクリームが事故を引き起こしているわけではない。

気温が上がることで、アイスクリームの売上も、水辺へ行く人も増える。

この場合、気温という第三の要因がある。

教育年数と所得に相関があっても、家庭環境、地域、能力、職業選択など、他の要因が関係している可能性がある。

「○○をする人は病気になりやすい」

「SNS利用が若者の不安を増やす」

「外国人が増えた地域で犯罪が増えた」

このような報道では、相関から因果を断定していないかを確認する必要がある。

第26章 因果関係が逆である可能性

二つの現象に関係があっても、因果の方向が想定と逆の場合がある。

「ニュースを多く見る人ほど政治的不安が強い」という調査結果があったとする。

ニュース視聴が不安を強めている可能性がある。

一方、政治的不安が強い人ほど、情報を得るためニュースを多く見ている可能性もある。

「病院が多い地域ほど死亡者が多い」という数字から、病院が死亡を増やしているとは言えない。

人口が多い地域や高齢者が多い地域に病院が多い可能性がある。

因果の方向を判断するには、時間的順序、研究設計、他の要因の統制などが必要である。

第27章 第三の要因を見落とす交絡

ある要因と結果の間に関係があるように見えても、別の要因が両方へ影響している場合がある。

これを交絡という。

地域Aでは外国人住民が多く、犯罪件数も多いとする。

しかし、地域Aは大都市で、人口、観光客、商業施設、交通量も多いかもしれない。

外国人住民数と犯罪件数だけを比較すれば、都市規模という要因を見落とす。

高齢者が多い地域で医療費が高い場合、地域の政策より人口構成が主な要因かもしれない。

単純な二つの数字だけで原因を説明してはならない。

第28章 シンプソンのパラドックス

集団全体で見た傾向と、集団を分けて見た傾向が逆になることがある。

これをシンプソンのパラドックスという。

たとえば、二つの病院の治療成績を比べたとする。

病院Aは重症患者を多く受け入れ、病院Bは軽症患者を多く受け入れている。

全体の死亡率だけを見れば、病院Aの成績が悪く見えるかもしれない。

しかし、重症患者同士、軽症患者同士で比較すると、病院Aの方が良い結果を出している場合がある。

全体平均だけでは、対象者の構成の違いを見落とす。

学校、病院、企業、地域、男女などを比較する際には、集団構成を確認する必要がある。

第29章 少数の事例から全体を判断しない

ニュースは、具体的な人物の物語を通じて問題を伝える。

一人の被害者。

一社の倒産。

一校の教育問題。

具体的な事例は、統計だけでは分からない現実を理解するために重要である。

しかし、一つの事例が全体を代表するとは限らない。

印象的な一件を紹介し、その後に「全国で同様の問題が広がっている」と結論づけるには、全体データが必要である。

個別事例と統計は、どちらか一方を選ぶものではない。

事例は問題の内容を示し、統計は問題の規模を示す。

両方を組み合わせる必要がある。

第30章 逸話はデータではないが、無視もできない

「私の周囲では、みんなそう言っている」

「知人が被害に遭った」

「現場では明らかに増えている」

こうした個人の経験を逸話的証拠という。

逸話だけで社会全体を判断することはできない。

しかし、公式統計にまだ表れていない問題を発見する手掛かりになることはある。

新しい詐欺の被害。

報告されにくい差別。

制度の不具合。

統計に記録されるまで時間がかかる現象。

逸話を全体の証明として使うのではなく、追加調査を始める手掛かりとして扱うのが適切である。

第31章 統計的に有意でも重要とは限らない

研究報道では、「統計的に有意な差が確認された」という表現が使われる。

統計的有意性は、観察された差が偶然だけでは説明しにくいことを示すための一つの基準である。

しかし、有意であることと、社会的・医学的に重要であることは同じではない。

大規模な調査では、非常に小さな差でも統計的に有意になることがある。

薬によって症状が平均0.1ポイント改善し、その差が統計的に有意でも、患者にとって意味のある改善とは限らない。

反対に、標本数が少ないため有意差が出なくても、重要な効果の可能性が残る場合がある。

「有意差あり」という言葉だけでなく、効果の大きさと不確実性を見る必要がある。

第32章 信頼区間は推計の幅を示す

一つの推計値だけでは、その不確実性が分からない。

信頼区間は、推計値がどの程度の幅を持つかを示す方法である。

たとえば、政策の効果を「5%改善」と示すだけでなく、推計の幅が「1%から9%」なのか、「マイナス3%から13%」なのかによって、解釈は変わる。

後者では、改善だけでなく悪化の可能性も含まれている。

報道では中心となる数字だけが強調され、幅が省かれることがある。

推計値を読むときには、その周囲の不確実性も確認する必要がある。

第33章 欠測値と都合の悪いデータ

調査では、すべての項目が完全に記録されるとは限らない。

回答がない。

記録が失われる。

特定の対象者だけ測定できない。

これを欠測という。

欠測が無作為に生じていれば、影響が小さい場合もある。

しかし、特定の特徴を持つ人ほど回答しない場合、結果が偏る。

高所得者ほど所得を答えない。

強い不満を持つ人だけ自由記述へ回答する。

症状が悪化した参加者ほど研究から離脱する。

報道で調査結果を見るときには、対象者数が途中で減っていないか、欠測をどのように扱ったかを確認する必要がある。

第34章 都合のよい結果だけを選ぶチェリーピッキング

大量のデータから、自分の主張に合う部分だけを選ぶことをチェリーピッキングという。

数10年のデータの中から、都合のよい2年間だけを比較する。

多数の研究の中から、自分の主張を支持する一つだけを紹介する。

20の指標を調べ、差が出た一つだけを報じる。

このような選択をすれば、個々の数字が正しくても、全体として誤った印象を作れる。

報道で「研究によって判明」と書かれていても、他の研究がどのような結果を出しているかを確認する必要がある。

単独の研究より、複数研究を総合したレビューやメタ分析の方が、全体像を示す場合がある。

第35章 都合のよい国や地域だけを比較する

国際比較でも、比較対象の選択が重要である。

日本を特定の一国だけと比較し、「日本は遅れている」「日本は優れている」と結論づける。

しかし、人口規模、制度、歴史、産業構造が異なれば、単純比較はできない。

自分の主張に合う国だけを選ぶこともできる。

政策効果を評価するなら、複数の類似国、導入前後、長期推移などを検討する必要がある。

国際ランキングの順位だけでなく、指標の定義と各国データの比較可能性を見ることが重要である。

第36章 統計の定義変更に注意する

同じ名称の統計でも、途中で調査方法や定義が変わることがある。

犯罪の分類方法。

失業者の定義。

感染者の報告方法。

企業規模の区分。

人口推計の方法。

定義変更の前後をそのまま比較すれば、実際には変化していないのに数字が増減したように見える。

報道で長期推移を見るときには、注釈や統計上の変更点を確認する必要がある。

第37章 実数の増加と記録方法の改善を区別する

ある問題の報告件数が増えたとき、実際の発生が増えたとは限らない。

社会的認知が高まり、被害者が報告しやすくなった。

相談窓口が増えた。

記録制度が改善された。

対象の定義が広がった。

これらによって、把握される件数が増えることがある。

ハラスメント、虐待、性犯罪、差別などでは、報告件数の増加が、問題の悪化だけでなく、以前は隠れていた被害が可視化されたことを示す場合がある。

件数が増えた原因を、単純に一つへ決めてはならない。

第38章 グラフは数字を直感へ変える

グラフは、複雑な数字を分かりやすくする。

長期的な傾向、集団間の差、割合などを直感的に理解できる。

しかし、グラフは見せ方によって印象を変えられる。

縦軸をどこから始めるか。

横軸の間隔をどう取るか。

色や面積をどう使うか。

どの期間を表示するか。

三次元表現を使うか。

グラフの数字が正しくても、視覚的な印象が誤解を招くことがある。

第39章 縦軸をゼロから始めないグラフ

棒グラフでは、棒の長さが値の大きさを表す。

縦軸をゼロから始めず、差のある部分だけを拡大すると、小さな差が巨大に見える。

支持率が48%から50%へ上がっただけでも、縦軸を四七%から始めれば、棒の高さが大きく変化したように見える。

ただし、すべてのグラフをゼロから始めるべきとは限らない。

株価、気温、細かな測定値などでは、変化を見るために軸を省略することが有効な場合もある。

重要なのは、軸の開始点と目盛りが明確に示され、読者へ誤った印象を与えていないかである。

第40章 横軸の間隔を操作する

時系列グラフでは、横軸の時間間隔が均等であるように見えても、実際には異なる場合がある。

1年、5年、10年の間隔が同じ幅で描かれれば、変化の速度を誤解する。

途中の年を省略し、都合のよい地点だけを結ぶこともできる。

急激な変化に見えるグラフでは、各点の時間間隔を確認する必要がある。

第41章 二つの縦軸で相関を演出する

一つのグラフに、異なる単位の二つのデータを重ねることがある。

左側の縦軸は犯罪件数、右側の縦軸は外国人人口。

それぞれの軸の幅を調整すれば、二つの線を似た動きに見せることができる。

線が重なって見えても、因果関係があるとは限らない。

二軸グラフを見るときには、各軸の単位と範囲を確認し、見た目の一致に引きずられないようにする必要がある。

第42章 三次元グラフは大きさを誤認させる

円グラフや棒グラフを三次元にすると、手前の部分が大きく、奥の部分が小さく見える。

立体の体積や遠近感が加わるため、実際の割合以上の差を感じる。

装飾的な三次元グラフは見栄えがよい。

しかし、正確な比較には、単純な二次元グラフの方が適している場合が多い。

第43章 面積と体積で表す図の危険

人物のアイコンや円の大きさを使い、数字の差を表す図がある。

身長が二倍の人物アイコンを描くと、面積は四倍程度に見える。

三次元の球体なら、体積はさらに大きくなる。

値が2倍なのに、視覚的には4倍、8倍に感じられる。

画像の高さ、面積、体積のどれが数字へ対応しているかを確認しなければならない。

第44章 円グラフは細かな比較に向かない

円グラフは、全体に占める割合を示すのに使われる。

しかし、似た大きさの区分を正確に比較することは難しい。

項目が多い。

合計が100%になっていない。

三次元表示になっている。

区分の順序が不規則である。

こうした円グラフは、理解を助けるより混乱を生む。

複数項目の比較には、棒グラフの方が適している場合が多い。

第45章 色は中立ではない

赤は危険、損失、悪化。

青や緑は安全、改善、安定。

このような色の印象が、数字の解釈へ影響する。

同じ数値でも、自分が批判したい集団を赤で示し、支持する集団を青で示せば、無意識の印象が変わる。

地図上の濃い色も、問題が深刻であるように見せる。

色分けの基準、凡例、区分の幅を確認する必要がある。

第46章 地図は人口を無視すると誤解を生む

選挙結果や感染者数を地図で示すと、面積の大きな地域が目立つ。

しかし、土地の面積と人口は同じではない。

人口の少ない広大な地域が一つの色で塗られると、多数の人がその意見を支持しているように見える。

逆に、人口の多い都市部は地図上で小さく見える。

地図を見るときには、土地面積による表示なのか、人口を調整した表示なのかを確認する必要がある。

第47章 予測は事実ではなく条件付きの推計である

選挙予測、人口予測、経済予測、感染症予測などが報道される。

予測は、一定の仮定とモデルに基づく。

出生率がこの水準で続く。

政策が変更されない。

人々の行動が一定である。

世界経済がこの範囲で推移する。

仮定が変われば、予測も変わる。

予測が外れたから、モデルが無価値とは限らない。

政策や行動が予測を見て変わった可能性もある。

一方、予測を確定した未来のように報じることは問題である。

予測値には、前提、範囲、複数シナリオを示す必要がある。

第48章 シナリオと予言を区別する

人口や財政の将来推計では、複数のシナリオが示されることがある。

出生率が高い場合。

中間の場合。

低い場合。

しかし、報道では最も衝撃的な数字だけが取り上げられることがある。

「五〇年後に人口が半減」

という見出しを見たら、それが中位推計なのか、低位シナリオなのかを確認する必要がある。

シナリオは、条件が成立した場合の結果を示す。

必ず起こる未来の予言ではない。

第49章 モデルには必ず限界がある

データ分析では、複雑な現実を数式や計算手順で表すモデルが使われる。

モデルは、現実を理解し、予測するために有用である。

しかし、すべての要因を含めることはできない。

どの変数を使うか。

どの関係を仮定するか。

過去のデータが将来にも当てはまると考えるか。

これらは分析者の判断を含む。

モデルの結果が細かな小数点まで示されると、非常に正確に見える。

しかし、入力データや仮定に大きな不確実性があれば、小数点以下の精密さに意味はない。

第50章 AIによるデータ分析も中立ではない

生成AIや機械学習は、大量のデータを分析し、傾向を発見できる。

しかし、AIが出した結果だから客観的とは限らない。

学習データが偏っている。

過去の差別や格差がデータへ含まれている。

測定しやすい指標だけを使っている。

モデルの判断理由が見えにくい。

AIが存在しない統計や資料を生成する。

このような問題がある。

AIへ数字を入力し、分析を依頼すると、もっともらしい因果関係や説明を出力する場合がある。

しかし、AIの文章は検証結果ではない。

元データ、計算方法、前提を人間が確認する必要がある。

第51章 政府統計にも限界がある

政府統計は、重要な一次情報である。

広い範囲を対象とし、継続的に収集され、方法も公開されることが多い。

しかし、政府統計だから完全に中立で正確とは限らない。

政策目的によって、どの統計を作るかが決まる。

予算や人員の制約がある。

回答者の誤記や未回答がある。

制度上把握できない人がいる。

定義変更が行われる。

公表時期が遅い。

重要なのは、政府統計を無条件に疑うことでも、無条件に信じることでもない。

調査方法、定義、注釈、改定履歴を確認することである。

第52章 企業が公表する満足度をどう読むか

企業広告では、「利用者満足度90%」「顧客支持率第1位」などの数字が使われる。

これらを見るときには、調査主体と調査対象を確認する。

誰が調査したのか。

企業自身か、第三者機関か。

実際の利用者へ聞いたのか。

無料体験者を含むのか。

何人が回答したのか。

どの質問で満足と判定したのか。

競合商品との比較条件は同じか。

広告用調査であること自体が問題なのではない。

調査条件が読者へ分かるように示されているかが重要である。

第53章 専門家の多数という表現を疑う

「専門家の8割が支持」

「医師の90%が推奨」

という表現も、調査設計によって意味が変わる。

どの専門家を対象としたのか。

回答率はどの程度か。

質問文は何か。

専門家の専門領域は一致しているか。

調査資金を誰が出したか。

学会全体の合意なのか、特定の会員や参加者の回答なのか。

「専門家」という肩書と割合を組み合わせると、非常に強い説得力を持つ。

だからこそ、対象者の定義を確認する必要がある。

第54章 データジャーナリズムの可能性

データジャーナリズムは、統計、公開データ、文書などを分析し、社会問題を明らかにする報道手法である。

個別の証言だけでは見えない長期傾向や地域差を示せる。

行政支出の偏り。

企業の献金や契約関係。

災害被害の地域差。

医療や教育へのアクセス。

データ分析によって、権力者の説明と実態の違いを明らかにできる。

一方、分析方法が複雑になるほど、読者が再検証しにくくなる。

データの出典、分析コード、除外基準、計算方法を可能な範囲で公開することが望ましい。

第55章 数字を使わない報道にも数字が隠れている

記事中に統計がなくても、数量的な判断が含まれることがある。

「批判が相次いでいる」

「多くの市民が反対」

「全国で混乱」

「専門家の間で懸念が広がる」

これらは、量や広がりを示す表現である。

何件の批判があったのか。

何人を調べたのか。

どの地域で混乱したのか。

何人の専門家が懸念を示したのか。

曖昧な数量表現も、検証の対象である。

第56章 数字のない「急増」「激減」を検証する

「急増」「急落」「激減」「過去最多」という言葉は、強い印象を与える。

しかし、どの程度の変化を急増と呼ぶかに統一された基準があるとは限らない。

一%の増加でも、見出しでは急増と表現されることがある。

数値が示されていなければ、元資料を確認する。

実数。

割合。

期間。

過去の推移。

これらを見て、自分で変化の大きさを判断する必要がある。

第57章 数字を疑うことと、数字を否定することは違う

データの限界を学ぶと、「統計はどうにでも操作できる」「数字は信用できない」と考えたくなる。

しかし、それは適切ではない。

統計やデータは、直感や個別経験だけでは分からない社会の傾向を理解するために不可欠である。

犯罪が増えていると感じても、長期統計では減っているかもしれない。

景気が悪いと感じても、産業や地域によって状況が異なるかもしれない。

個人の経験だけでは、社会全体を判断できない。

数字を疑うとは、数字を捨てることではない。

定義、方法、誤差、比較、解釈を確認し、数字をより正確に使うことである。

第58章 データの読み方には価値判断も関係する

数字が同じでも、政策判断は一つに決まらない。

失業率が下がった。

しかし、非正規雇用が増えているかもしれない。

医療費が増えた。

しかし、高齢者の健康が改善している可能性もある。

防衛費が増えた。

安全保障上必要だと考える人もいれば、他の社会支出を圧迫すると考える人もいる。

データは、現状や政策効果を考える材料になる。

しかし、何を優先するかは価値判断を含む。

「数字が証明した」という表現によって、価値判断まで客観的事実であるかのように見せてはならない。

第59章 報道の数字を読むための12の質問

数字を使った報道を見たときには、少なくとも次の十二点を確認する必要がある。

第一に、何を測った数字か。

第二に、母集団は誰か。

第三に、標本はどのように選ばれたか。

第四に、回答者数と回答率はどの程度か。

第五に、質問文と選択肢は何か。

第六に、分母は何か。

第七に、割合と実数の両方が示されているか。

第八に、比較期間と基準年は適切か。

第九に、平均値だけでなく中央値や分布も必要ではないか。

第十に、相関を因果関係として説明していないか。

第十一に、グラフの軸、目盛り、色は適切か。

第十二に、元データと調査方法へアクセスできるか。

この十二項目を確認するだけでも、数字による印象操作の多くを見抜きやすくなる。

第60章 数字でだまされないためには、結論より方法を見る

数字を使った報道で、最も目立つのは結論である。

「支持率が低下」

「危険性が二倍」

「利用者の九割が満足」

しかし、本当に見るべきなのは、その数字がどのように作られたかである。

何を数えたか。

誰を調べたか。

何と比較したか。

どのように質問したか。

何を除外したか。

どの程度の不確実性があるか。

数字は、方法から切り離して評価できない。

データリテラシーとは、難しい数式を使う能力だけではない。

数字が作られた過程を問い、数字が言えることと、言えないことを区別する能力である。

今回の要点

・データは、現実を一定の定義と方法によって切り取ったものである。

・標本調査では、回答者数だけでなく、誰をどのように選んだかが重要である。

・大人数の自由参加型アンケートが、少人数の無作為調査より正確とは限らない。

・世論調査には標本誤差だけでなく、非回答、質問文、質問順序などの影響がある。

・世論調査の結果を見るときには、実際の質問文と選択肢を確認する必要がある。

・割合を見る前に、分母と実数を確認しなければならない。

・パーセントとパーセントポイントは異なる。

・相対リスクの増加だけでなく、絶対リスクの変化を見る必要がある。

・平均値は、一部の極端な値によって大きく変わるため、中央値や分布も確認する。

・ランキングは、評価項目と重み付けによって順位が変わる。

・比較期間や基準年を変えることで、同じデータを上昇にも下降にも見せられる。

・相関関係があっても、因果関係があるとは限らない。

・全体の傾向と集団別の傾向が逆になる場合がある。

・統計的に有意であっても、社会的に重要な差とは限らない。

・グラフの縦軸、横軸、色、面積、三次元表現によって、数字の印象は変化する。

・予測は、一定の仮定に基づく条件付きの推計であり、確定した未来ではない。

・政府統計、企業調査、専門家調査のいずれにも、定義、方法、目的を確認する必要がある。

・数字を疑うことは、統計を否定することではない。

・データリテラシーとは、数字の結論ではなく、数字が作られた方法を見る能力である。

実践ワーク――一つの数字報道を分解する

最近見たニュースから、支持率、犯罪、経済、健康、教育、人口など、数字を中心にした記事を一つ選んでほしい。

1 見出しの中心的な主張を書く

「支持率が急落した」「犯罪が増加した」など、記事が伝えようとしている結論を一文で書く。

2 元データを探す

政府統計、世論調査の概要、研究論文、企業資料など、記事が使った元資料を確認する。

3 何を測った数字か確認する

対象となる出来事、人物、期間、地域、定義を書く。

4 母集団と標本を確認する

誰について知りたい調査で、実際には誰へ聞いたのかを確認する。

5 標本の選び方を確認する

無作為抽出、電話調査、インターネット調査、自由参加型投票など、方法を調べる。

6 回答者数と回答率を確認する

何人を対象とし、何人が回答したかを見る。

7 質問文と選択肢を確認する

世論調査の場合、実際の質問文、質問順序、回答選択肢を確認する。

8 分母と実数を確認する

割合だけでなく、実際に何人または何件なのかを見る。

9 比較期間を変えてみる

前年、5年前、10年前など、別の期間と比べた場合に印象が変わるかを確認する。

10 平均値以外を確認する

平均値が使われている場合、中央値、最頻値、分布が示されていないかを探す。

11 相関と因果を分ける

記事は、二つの数字が一緒に動いたことから、原因まで断定していないかを確認する。

12 グラフを点検する

縦軸はどこから始まっているか。

横軸の間隔は均等か。

三次元表示や面積による誇張はないか。

二つの縦軸を使っていないか。

13 不確実性が示されているか

標本誤差、信頼区間、予測幅、研究上の限界が説明されているかを見る。

14 見出しと元データを比較する

見出しは、元データが言える範囲より強い断定になっていないかを確認する。

15 自分の結論を書く

次のいずれに近いかを記録する。

・見出しと元データはおおむね一致している
・数字は正しいが、見出しが誇張されている
・分母や比較期間が不足している
・調査対象に偏りがある
・相関を因果関係として扱っている
・グラフが誤解を招く
・証拠不足で判断できない

このワークの目的は、記事の数字をすべて否定することではない。

数字がどこまで記事の結論を支え、どこからが記者や発信者の解釈なのかを区別することである。

次回予告

次回は、「OSINTでニュースを検証する方法――画像・動画・地図・公文書から事実を確かめる」を扱う。

ネット上に流れる画像や動画には、撮影場所や日時が誤って説明されたもの、過去の映像を現在の出来事として再利用したもの、音声や字幕を加工したものが含まれる。

第7回では、リバース画像検索、地図、衛星画像、ストリートビュー、天候記録、太陽と影、ウェブアーカイブ、公文書などを使い、情報の出所、撮影場所、日時、変更履歴を確認する方法を解説する。

OSINTは、秘密情報を盗み出す技術ではない。

誰でもアクセスできる公開情報を組み合わせ、第三者が再検証できる形で事実へ近づく方法である。

総合案内

全10回の構成と各回の記事については、総合案内記事を参照されたい。

総合案内記事:
「オールドメディアとネット時代の情報検証――誤報・偏向報道を認知戦、データサイエンス、OSINTで読み解く【全10回】」

参考文献・関連資料

※英文資料の日本語タイトルは、読者の理解を助けるための参考訳である。

American Association for Public Opinion Research.(n.d.). Best practices for survey research. AAPOR.
〔参考訳:『世論調査研究の最良実践』〕

Cairo, A.(2016). The truthful art: Data, charts, and maps for communication. New Riders.
〔参考訳:『真実を伝える技術――データ、グラフ、地図によるコミュニケーション』〕

Cairo, A.(2019). How charts lie: Getting smarter about visual information. W. W. Norton.
〔邦訳:『グラフのウソを見破る技術』〕

Darrell Huff.(1954). How to lie with statistics. W. W. Norton.
〔邦訳:『統計でウソをつく法』〕

Few, S.(2012). Show me the numbers: Designing tables and graphs to enlighten(2nd ed.). Analytics Press.
〔参考訳:『数字を見せる――理解を促す表とグラフの設計』〕

Gelman, A., Hill, J., & Vehtari, A.(2020). Regression and other stories. Cambridge University Press.
〔参考訳:『回帰分析とその他の物語』〕

Gigerenzer, G.(2014). Risk savvy: How to make good decisions. Viking.
〔邦訳:『リスク・リテラシー――不確実な世界を生き抜く技術』〕

Kahneman, D.(2011). Thinking, fast and slow. Farrar, Straus and Giroux.
〔邦訳:『ファスト&スロー――あなたの意思はどのように決まるか?』〕

National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine.(2017). Communicating science effectively: A research agenda. The National Academies Press.
〔参考訳:『科学を効果的に伝える――研究課題』〕

Spiegelhalter, D.(2019). The art of statistics: Learning from data. Pelican.
〔邦訳:『統計学の極意――データから学ぶ技術』〕

Tufte, E. R.(1983). The visual display of quantitative information. Graphics Press.
〔参考訳:『定量情報の視覚的表示』〕

Tufte, E. R.(1997). Visual explanations: Images and quantities, evidence and narrative. Graphics Press.
〔参考訳:『視覚的説明――画像、数量、証拠、物語』〕

United Nations Economic Commission for Europe.(2009). Making data meaningful: Part 2—A guide to presenting statistics. United Nations.
〔参考訳:『データを意味あるものにする――統計の提示ガイド』〕

Wheelan, C.(2013). Naked statistics: Stripping the dread from the data. W. W. Norton.
〔邦訳:『統計学をまる裸にする――データはもう怖くない』〕

総務省統計局.(n.d.).「統計学習の指導のために」.

総務省統計局.(n.d.).「政府統計の総合窓口 e-Stat」.

ご感想、お問い合せ、ご要望等ありましたら下記フォームでお願いいたします。

投稿者プロフィール

市村 修一
市村 修一
【略 歴】
茨城県生まれ。
明治大学政治経済学部卒業。日米欧の企業、主に外資系企業でCFO、代表取締役社長を経験し、経営全般、経営戦略策定、人事、組織開発に深く関わる。その経験を活かし、激動の時代に卓越した人財の育成、組織開発の必要性が急務と痛感し独立。「挑戦・創造・変革」をキーワードに、日本企業、外資系企業と、幅広く人財・組織開発コンサルタントとして、特に、上級管理職育成、経営戦略策定、組織開発などの分野で研修、コンサルティング、講演活動等で活躍を経て、世界の人々のこころの支援を多言語多文化で行うグローバルスタートアップとして事業展開を目指す決意をする。

【背景】
2005年11月、 約10年連れ添った最愛の妻をがんで5年間の闘病の後亡くす。
翌年、伴侶との死別自助グループ「Good Grief Network」を共同設立。個別・グループ・グリーフカウンセリングを行う。映像を使用した自助カウンセリングを取り入れる。大きな成果を残し、それぞれの死別体験者は、新たな人生を歩み出す。
長年実践研究を妻とともにしてきた「いきるとは?」「人間学」「メンタルレジリエンス」「メンタルヘルス」「グリーフケア」をさらに学際的に実践研究を推し進め、多数の素晴らしい成果が生まれてきた。私自身がグローバルビジネスの世界で様々な体験をする中で思いを強くした社会課題解決の人生を賭ける決意をする。

株式会社レジクスレイ(Resixley Incorporated)を設立、創業者兼CEO
事業成長アクセラレーター

【専門領域】
・レジリエンス(精神的回復力) ・グリーフケア ・異文化理解 ・グローバル人財育成 
・東洋哲学・思想(人間学、経営哲学、経営戦略) ・組織文化・風土改革  ・人材・組織開発、キャリア開発
・イノベーション・グローバル・エコシステム形成支援

【主な著書/論文/プレス発表】
「グローバルビジネスパーソンのためのメンタルヘルスガイド」kindle版
「喪失の先にある共感: 異文化と紡ぐ癒しの物語」kindle版
「実践!情報・メディアリテラシー: Essential Skills for the Global Era」kindle版
「こころと共感の力: つながる時代を前向きに生きる知恵」kindle版
「未来を拓く英語習得革命: AIと異文化理解の新たな挑戦」kindle版
「グローバルビジネス成功の第一歩: 基礎から実践まで」Kindle版
「仕事と脳力開発-挫折また挫折そして希望へ-」(城野経済研究所)
「英語教育と脳力開発-受験直前一ヶ月前の戦略・戦術」(城野経済研究所)
「国際派就職ガイド」(三修社)
「セミナーニュース(私立幼稚園を支援する)」(日本経営教育研究所)

【主な研修実績】
・グローバルビジネスコミュニケーションスキルアップ ・リーダーシップ ・コーチング
・ファシリテーション ・ディベート ・プレゼンテーション ・問題解決
・グローバルキャリアモデル構築と実践 ・キャリア・デザインセミナー
・創造性開発 ・情報収集分析 ・プロジェクトマネジメント研修他
※上記、いずれもファシリテーション型ワークショップを基本に実施

【主なコンサルティング実績】
年次経営計画の作成。コスト削減計画作成・実施。適正在庫水準のコントロール・指導を遂行。人事総務部門では、インセンティブプログラムの開発・実施、人事評価システムの考案。リストラクチャリングの実施。サプライチェーン部門では、そのプロセス及びコスト構造の改善。ERPの導入に際しては、プロジェクトリーダーを務め、導入期限内にその導入。組織全般の企業風土・文化の改革を行う。

【主な講演実績】
産業構造変革時代に求められる人材
外資系企業で働くということ
外資系企業へのアプローチ
異文化理解力
経営の志
商いは感動だ!
品質は、タダで手に入る
利益は、タダで手に入る
共生の時代を創る-点から面へ、そして主流へ
幸せのコミュニケーション
古典に学ぶ人生
古典に学ぶ経営
論語と経営
論語と人生
安岡正篤先生から学んだこと
素読のすすめ
経営の突破口は儒学にあり
実践行動学として儒学に学ぶ!~今ここに美しく生きるために~
何のためにいきるのか~一人の女性の死を見つめて~
縁により縁に生きる
縁に生かされて~人は生きているのではなく生かされているのだ!~
看取ることによって手渡されるいのちのバトン
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